
【インタビュー】甲田まひるが拓いたヒップホップの新境地「HOME PARTY」に踊れ

シンガーソングライターでありながら、ジャズピアニスト、ファッショニスタ、俳優としても幅広く活躍し、10代20代からの絶大な支持を誇る甲田まひるが、自身のバックボーンの一つであるヒップホップにフォーカスした最高にクールでリアルなEP『HOME PARTY』を5月23日にリリースした。洗練されたサウンドに乗せて歌われる赤裸々な感情、リリックの一つひとつは小気味よく、それでいて容赦なく聴き手の魂に揺さぶりをかける甲田まひるの真骨頂とも呼びたい今作だが、はたして彼女が込めた想いとは……? 曲作りにおける新たなトライや、歌詞との向き合い方などもじっくりと掘り下げつつ、さらには7月公開の映画『ババンババンバンバンパイア』の挿入歌として書き下ろした6月20日リリースのニューシングル『ナツロス』についてもたっぷり語ってもらった。
歌を始める前からラップが好き
リリースから数日経ちましたが、反響はいかがですか。

甲田まひる:めっちゃいいです、今回は特に。周りの近しい人たちや同世代の友達からの反応もすごくよくて。自分自身の手応えがあるときってそれだけでも充分なんですけど、自分が思っているのと同じくらいのいい反応が来ると、私がやっていることは間違ってなかったんだなって思えて嬉しいですね。
先行シングルとしてリリースされた表題曲の『HOME PARTY』はMVもかなり話題を呼びましたし、その時点でかなり手応えを感じていらしたのでは?
甲田まひる:そうですね。でも『HOME PARTY』を作っていたときには、まだ他の曲はほぼない状態だったんです、なので、まだそこまでわかっていなかったかも。
EPとしての全体像はイメージしていらっしゃったんでしょうか。
甲田まひる:もともとこれまでとは違った作品、ヒップホップ寄りの作品を作ろうかっていう話はしていたんです。そのときに自分が作っていた曲のなかで『HOME PARTY』がいちばん絵が浮かぶ曲だったので、これを軸に進めていこうって。そこから集中して他の曲を作っていった感じでした。
今の日本の音楽シーンでこれだけヒップホップに寄せた作品を作るのは、かなり思い切ったことだと思うんですよ。ずっとこうした作品を作りたい想いを持っていらしたのでしょうか。
甲田まひる:はい。そもそも歌を始める前からラップが好きだったんですよ。そこからだんだんポップスを聴くようになっていったので、順番的にはヒップホップのほうが先なんです。ファンの方や周りからもずっとラップだけの曲を聴きたいとも言われていたりもして。
実際、作ってみていかがでした?
甲田まひる:楽しさしかなかったです。ストレスもないし、作るスピード感も全然違いました。こっちのほうが断然速い。
いいものはすぐ世に出したい
ちなみに今回は5曲中3曲の作曲を甲田さん以外の方が手がけていらっしゃいますよね。これまでは基本、ご自身が作曲もされていましたが、そのへんのこだわりとかは……。

甲田まひる:今回はなかったです。自分で作るのが好きなのは変わらないんですけど、最近、海外では共作をたくさん入れるのが主流になっていますし、自分のなかにない音や人が作ったビートに乗るのもちょっと不思議な感じがあって逆に楽しいなって思い始めているんですよ。自分にとって新しい挑戦にもなるし、なんといっても、みんなめちゃめちゃ若い人たちで作っているのもあって制作過程もすごく楽しかったんです。
刺激をたくさん得られたんですね。
甲田まひる:例えばトラックメイカーの方々が送ってくださった膨大な量のビートを、自分の作業をしつつ傍らで聴いて「いいな」と思ったら、すぐに乗ってみるっていう楽しみも最近は広がっているんですよ。いいものって、すぐに世に出したいじゃないですか。パッと乗ってパッと出すのも時代のムーブとしてはすごく今っぽいというか、特にヒップホップの場合、それこそが本当の作り方みたいなところもあると思うんですよね。
膨大な量のビートからいいものを発掘するって大変じゃないです?
甲田まひる:大変です(笑)。ひたすら聴いて、そのなかで乗れそうなものがあったら、すぐに乗っかる感じでやってますね。
その場で自分の気持ちがフィットしたものを膨らませていく。
甲田まひる:そんな感じ。自分で曲を作るときもトラックから先に作るほうが多いんですよ。なので捉え方はかなり似てるというか、とりあえず自分で作ってから乗る、みたいなところは工程としてあまり変わらないので。その場で適当な言葉をワーッと乗せて録音したものをあとから聴いて、自分が無意識に口にしていた単語からテーマを広げたりとか、そういうのが多いです。
思ったことは歌詞でしか言えない
適当に言葉を乗せるときって英語が多いんですか。それとも日本語?

甲田まひる:英語ですね。ただ、英語だと断然ハマりがいいんですけど、それを日本語にあえて変換するのが超難しいんです。やっぱりまずは日本のリスナーに向けて書きたいので、できるだけかっこよく聴こえるような日本語を選んで、なんとか落とし込んでいったりして。大変だけどそういう作業も楽しいんですよ。
サウンドが洋楽的だから、なおのこと歌詞に散りばめられた日本語が際立つ面白さもありますね。
甲田まひる:私も日本語の響きって独特で面白いなと思います。今はまだ自分と共通の言語をしゃべる人たちに届けたい気持ちが大きいので、日本語のほうが伝わりやすいですし。でもその半面、言葉って意外と重要じゃないなとも思っている部分もあるというか……だって別に歌詞がわからなくてもかっこいい曲はあるじゃないですか。
それこそ洋楽とか。
甲田まひる:はい。だから、そこは気にしつつも気にせず、みたいな。英語と日本語、どっちがいいか迷ったときは音感がいいほうを選ぶことにしています。
歌詞に着目すると、どの曲もかなり赤裸々と言いますか……甲田さんのリアルな心情がありありと綴られていますよね。
甲田まひる:かもしれないです。今までにもラップの曲ではわりと、リアルさは出しているんですけど、曲数としても全体に占める割合が少ないのであまり目立ってなかったんだと思うんです。でも今回は言いたいことを書いた曲ばかりがギュッと集まっているので、よりパワーを感じるのかも(笑)。
言いたいことを曲にして世に放つことに躊躇などはないんですか。
甲田まひる:逆に日常ではあまり言えないんです、思ったことを。歌詞でしか言えないので、むしろリアルでありたい。抵抗とか躊躇とかは何もないですね。
ペンが進むのはネガティブなほう
例えば『MISSION』の<好きじゃないmy voice my face/だからこなすmission/人の倍の倍の倍/じゃあ何も怖くないや>とか、すごくハッとさせられる歌詞で。

甲田まひる:私もそうですけど、同世代を見ていると「自分の顔が大好きです」っていう人のほうが少ないと思うんですよ。もちろん、自分のことを「めちゃめちゃ好きです」って胸を張って言える人は素敵だなって思うけど、私はそうじゃない人に共感したいんですよね。自分の憧れている人や好きな人が、実は自分と同じような想いでいたんだと知ることができたら、少しは気持ちが軽くなったり、救われたように感じられたりするかもしれないじゃないですか。私自身もそういう経験がいっぱいあったので、私も自分の本当の気持ちはそのまま書いておこうと思って。これを残すことで、数年後の自分が読んで「私、こう思ってたんだな」って思い返せるかもしれないですし。
『SOURBITES』の<まひるは手に負えないからしょうがねぇ>もなかなかに強烈な一節ですよね。
甲田まひる:これはよく私が周りから言われている言葉なんです(笑)。何かやらかすとか、ぶちまけちゃうとか、そういうことは日常茶飯事なんですよね。謝って許してもらえれば終わることなんですけど、それだけだとちょっともったいない気がしちゃうんです。せっかくアクシデントが起きて、それに反応してくれる周りの環境があるなら、最終的に音楽に落とし込まないとオチが付かないよなと思って(笑)。
一方で『DOOR』は恋愛における行き場のない想いや切々とした痛みが綴られた、内省的なムードの楽曲と相まって胸に迫るバラードになっています。
甲田まひる:しんみりした曲を書くのが好きなんですよ。何事に対してもネガティブな感情のほうが湧きやすいというか、ペンが進むのはそっちのほうなんですよね。もちろん、ネガティブにはなりたくないんですけど、自分のなかで占めているネガティブの割合が多くて、そのぶん言葉として出てきやすいんです。
でもネガティブな感情ってバネにもなりませんか。変換して自分を奮い立たせる燃料にもできる。
甲田まひる:たしかにその過程は毎度あるかもしれない。『MISSION』にしても結局、プラスへの変換してはいますしね。ただマイナスなだけで終わって何も生まれないのは、やっぱりもったいないなって思っちゃうので。
テーマは孤独。どこまで行っても一人
『ALONE』の<強いwing背負って/世界中虜にするのが/私のgoal>なんて、まさにそうした変換の結果ですよね。かなり前向きな意志がこの言葉には宿っている気がします。

甲田まひる:ああ……でも、これはもっとシンプルな、恋愛の場面でも日常的に起きるようなことだったりもするんですけどね。
と言いますと?
甲田まひる:仕事と恋愛を両立するのって本当に難しいと思うんですよ。自分の場合、恋愛と同じぐらい仕事にも自分のメンタルが振り回されるので、他の要素が入ってきちゃうと、どちらかが壊れることが多いんです。仕事と恋愛、どっちを取るかとなったとき、やっぱり仕事は捨てられないじゃないですか。
なるほど、興味深いです。
甲田まひる:もともとそういう脳みそなんですよ、たぶん。支障が出ないぶんには全然いいけど、ちょっとでも自分の思考に揺らぎが生まれるとストレスになっちゃうんです。そうなったらもう、とにかくすぐにクリアにしたくなるというか、一気に消しゴムで全部消したくなっちゃう性格なんですよね。だからその歌詞の前に、<君に悪いけど>っていう一行を書いたんですけど(笑)。
申し訳ないとは思ってる、と(笑)。
甲田まひる:はい。もったいないことしちゃったなって思うこともたくさんありますしね。でも失うものがあっても自分にとってはケリをつけなくちゃいけないことだし、最終的には自分を選ぶっていう曲なんです、これは。
お話を伺えば伺うほど、『HOME PARTY』は“甲田まひる”そのものな作品だという気がします。私は私、このままで行かせてもらうよ、と宣言しているようにも思えますし。
甲田まひる:そう感じてもらえたら嬉しいですね。今回、テーマが孤独なんですよ。どこまで行っても一人だっていう。
でも、だからこそ、目指せるものはあるでしょうね。
甲田まひる:そうなんです。一人のほうが自由が利きますし、自分だけだったら、別にどうなってもいいとも思えるので。
今回はある意味、実験的でもある
それもかっこいい生き方だと思います。ところで今回、驚いたのは、これだけ聴き応えのある曲ばかりが揃っているのに、全5曲で約12分というコンパクトさで。一般的なポップミュージックと比してもかなり短いと思うのですが、あえてそうしたのですか。
甲田まひる:今のヒップホップって1曲がだいたい2分とか1分半のものが多いんですよ。リスナーもそうですけど、作る側のプロデューサーさんもみんな、口を揃えて短いほうがいいって言いますしね。なので意図がない限り、できるだけ短くしようとは思っていました。逆に『DOOR』は長くしたいと思って作ったので、この曲だけ3分を超えているんですけど。
短いのが今の時代的なフィーリングなんでしょうか。
甲田まひる:そんな気はしてます。でも個人的には短くても長くても、あんまり関係ないなとは思っているんです。むしろ私自身は、服でも音楽でもわりとビンテージが好きで、基本オールドなものを好んで聴いてきてたりしているので、考え方としてはわりと昔寄りなんですよ。だから今回はある意味、実験的でもあるというか、よりスタイリッシュに、今の若い世代にどう刺さるのかを優先的に考えたときに、何回も聴こうと思ってもらえるものが短い曲だったりするので必然的にそうなった感じですね。自分の考えだけに固執して可能性を狭めてしまわないようにしたいなと思って。
意識的にそうされているんですね。
甲田まひる:めちゃめちゃ意識しています。聴き手側のことも考えないと、昔からある音楽の理論とか自分が慣れ親しんでいたものだけで作っても受け入れられる時代ではないっていう危機感もありますし。単にポンとリリースして、世界の片隅に置いておきたいだけなら別にそれでもいいですけど、やっぱり多くの人に聴いてもらいたいと思うなら、新しいアイデアは積極的に取り込んでいったほうが、自分としても面白いかなって。
我ながら別人みたいだと思ったりも
かと思えば、6月20日にリリースを控えている『ナツロス』はまたベクトルのまるで異なるキャッチーでポップな夏ソングに仕上がっています。『HOME PARTY』が真夜中なら『ナツロス』は思いっきり太陽の下というイメージですが、7月公開の映画『ババンババンバンバンパイア』の挿入歌として書き下ろされたのもきっと大きな要因になっていますよね。
甲田まひる:それは大きいと思います。太陽が好きじゃないので何もないまま作るとどうしても夜の方向に行ってしまうんですけど、こうしたオファーをいただけると昼の世界に引きずり戻してもらえるんです(笑)。でも『ナツロス』みたいな曲を私っぽいって言ってくださる方も多いんですよ、ハマってるねって。それも私にとっては嬉しいことで。一つの作品を作っているときって、目の前にあるものに対しての100%を目指して集中しているので、どうしても俯瞰で見ることができないんですよね。だから完成したあとに他の自分の作品も含めて振り返ると、なんだか別人みたいだなって我ながら思ったりするんですけど。でも、それでいいんだなって最近は思っていて。こうして誰かが作った世界に対して曲を書くのはすごく好きですし、なんなら自分のためより人のために書くほうが気持ちが入っていきやすかったりもするんですよ。作家としての脳が刺激されるというか。
さらに7月にスタートするTVアニメ『強くてニューサーガ』のエンディングテーマ曲に新曲『her』(リリース未定)が決定したとの告知もされましたし、ますますお忙しくなりそう。
甲田まひる:ありがたいですよね。実は『ナツロス』や『her』は結構前にお話をいただいて書いていた曲で、そのあとに『HOME PARTY』を作ったので、かなり制作が続いていたんですよ。だから今は次をどうしようか、ちょっと考える時間が必要かなって。やっぱり納得できるものを出したいので、自分の体がどんなものを作りたいかわかるまで、ひたすら待とうと思っています。
ふとしたときに聴きたい音楽がいい
それもすごく大事ですね。この先、こういうアーティストになっていきたいとか、こんな表現をやってみたいとか、考えていることはありますか。

甲田まひる:自分のなかである程度しっくりこないと、どんなに評価されてもあまり実感が湧かないというか「本当に良かったのかな?」ってずっと引きずっちゃうタイプなんですよ。自分自身、本当に合点のいくものができて、それをみんなに「いいね」って言ってもらえる瞬間がいちばん気持ちいいじゃないですか。そのためにも自分の納得できるものを作れる努力が必要だなって。それが課題であり、目標ですね。あとはそうだな……誰かの目にどう映りたいとかはあんまり考えたことがないんですけど、きっと日常のなかで絶対に流れていてほしい音楽って人それぞれにありますよね。そう思ってもらえるアーティストにはなりたいです。何かの折に「あ、この人の曲を聴こう」って思ってもらえるってすごいことじゃないですか。正直、自分の音楽で人を勇気づけるとかは別にどうでもいいんです。私自身が音楽を聴くときもそんなのは求めていないですし。そうじゃない、ふとしたときに「あ、今、これ聴こう」がいちばん好きな証拠だと思うので、それが私の音楽だったらすごく嬉しいなって。
わかりました。では最後に当サイト名の“Lotus(=蓮の花)にちなみまして、『HOME PARTY』という作品を花や植物に例えていただきたいのですが。
甲田まひる:いちばん最後に、いちばん難しい質問が(笑)。なんでしょうね……やっぱり、暗闇だからこそ輝いてしまう一輪の花、かな。しかも大きめの。
バラのような?
甲田まひる:○○のような、とかは存在しない、誰にもまだ発見されていない花ですね。今、浮かんでいるのは、真っ暗ななかに一筋の光が差していて、そこに一輪の大きめな赤い花が飾られてるっていうイメージ。孤独がテーマの作品なので。
TEXT 本間夕子
PHOTO 豊崎稔幸
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— Lotus編集部 (@lotus_magic_d) April 1, 2024
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