インタビュー

【インタビュー】新進気鋭の音楽家NEWLYが1st Full AL「Not About All」をフィジカルリリース。彼の音楽性と今作について聞く

【インタビュー】新進気鋭の音楽家NEWLYが1st Full AL「Not About All」をフィジカルリリース。彼の音楽性と今作について聞く

数多のアーティストへの楽曲提供をはじめ、プレイヤーとしてもスキルフルなパフォーマンスを魅せる音楽家・NEWLYが昨年11月配信した1st Full AL『Not About All』を3月26日にフィジカル版としてレコード・CD・カセット3種を同時リリースした。今作は物語を紡ぎ、彼の音楽性を十分に発揮した意欲作。フィールドに捉われない彼の音楽性はどのようにスタートしたのか、このタイミングでNEWLYというひとりの音楽家の軌跡と今作について紐解き、音楽家・NEWLYの素顔に迫っていこうと思う。

NEWLYというひとりの音楽家

唐突な質問で申し訳ないですが、NEWLYというアーティストをご自身でどのように捉えていますか?

NEWLY:音楽を全般的にやる、音楽家ですかね。もちろん信念みたいなものを持っていますけど、ひとつ言えるのは、言葉以外の方法を信じてみたいと思いながら日々働いています。肩書きは、作曲家、音楽家がいちばんしっくりくるかな。

それが、リスナーに伝わっている印象はありますか?

NEWLY:うーん、それは分からない。きっとビートメーカーだと思っているリスナーの方もいるだろうし、ギターやベースも弾くので中にはプレイヤーだと思っている人もいる。時には歌詞も書きますし、映像作品に音をつけることも好きですし、環境音を集音することも好きですし、音に関しては全てをやるという感じだから。

Lotus初登場ということで、NEWLYさんの言葉で何者かを説明していただくのがいいかなと思ってこの質問だったんですけど、おっしゃったように“音”に関しては何でもするというのが僕の印象でもあって。そこまで多岐に渡るようになったNEWLYさんの音楽ルーツもすごく気になるのですが。

NEWLY:中学生くらいから、日本のバンド、ペトロールズやtoeとかが好きで。そこから高校生になるとジャズを聴くようになって、HIPHOPも好きになって、90年代〜2000年代のHIPHOPを聴いて、アンビエントやいろんなジャンルを聴くようになりました。日本・海外、年代問わず聴いてきました。

そこからいちばん自分の中で芯を食ったジャンルはどこになるんですか?

NEWLY:インスト全般ですね。もちろんラップも歌も歌詞の世界観もすごく好きですけど、音にフォーカスしていきましたね。ジャンル関係なく言葉が乗らないものがフィットした感覚があります。 

NEWLYさんの音楽はそれこそインスト楽曲も特徴の一つだと思うけど、好きなものと実際にやるとではまたベクトルが異なると思うんです。ある種、インストって難しいジャンルであり、ポップス好きの多い日本では大衆にも刺しづらいものだと思う。NEWLYさんが自分の生業としてインスト楽曲を生み出すのは、どうしてですか?

NEWLY:今回のアルバム『Not About All』を作るまではあまり聴き手のことを意識してこなかったんですよ。でも今作はほぼインスト作品、届いてくれる人のことを考えて作ったなと思います。ただ、大衆に向けてということはよく分からないから、個人の心の中で大切にして貰えたらいいなと思っていましたね。

なるほど。

NEWLY:堅苦しくて難しいものは作りたくはないんですよ。「なんかいいよね!」と思って貰えたらいいなと思ってます。その「なんか」の部分が言語化されなくてもいいと思ってるし、広く深く刺さってくれる人がいてもいいし、BGMのように聴いてくれるのもいいし。でも自分が作っているものは集中して聴いたら楽しいものだと思います。

さまざまな出会いや経験

前作『NEUE』のリリースの時に別媒体でインタビューをさせてもらったからこそ、言えるのは、今作は鳴る音からNEWLYさんの成熟したアーティスト像みたいなものを感じたんですよね。

NEWLY:あはは(笑)。いいですね〜。

それこそ前作はラッパーをフィーチャリングしてHIPHOPにフォーカスを当てた作品だったと思うんですけど、今作はとても繊細な音を紡いでいた。前作からの3年間でどんなものに触れて、どんな意識の変化があったのか、そこも気になるんです。

NEWLY:聴く音楽も関わる人も増えたし、いろんなものへの先入観も無くなって。というにもいろんな場所やいろんな人に会って、いろんな価値観を教えてくれたんですよね。それが理由か、恥ずかしくなくなってきました(笑)。

というと?

NEWLY:「これが好きなんだ!」と言うのは結構怖いところがあって。誰かに批判されたりしたら、傷つくし。だから誰にも共有しない性格だったんですけど、とあるキッカケがあってDJをやらせてもらったりとか、長岡亮介さんの制作に入らせてもらったりとか、そういう要因があって、好きな音楽を「どう?」と披露できる機会が増えて。そうすると自分の中にもいろんな音楽が入ってくるんですよ。作りたい物や感じているものを音に変換するのが楽しくなってきてるフェーズかなと思います。

やはり、長岡さんか。ペトロールズも好きだったわけですしね。

NEWLY:そうですね。自分には音楽の先輩がそんなにいなかったので、こうやって物を作るんだということを見てなかったし、セッションをやってきたわけでもないから、フィジカルで熱いものを体感することが少なかったんですよ。でも、亮介さんとの制作ではいろんなものを学べているし、「これ、いいじゃん」という言葉が嬉しい。あとは、今作を制作中に音楽をやっていない友達もよく家に遊びに来ていたんですけど、その友達に「いいじゃん!」と言われたりすると、自分はこれまでこねくり回して考えていたんだなと、気付いたりもして、「こういうものが作りたい」と素直に出るようになったのかもしれない。

なるほど。思考もシンプルになってきたと。

NEWLY:まさに、そうですね。

物語を紡ぐように、制作を進めた

では、本作『Not About All』についてお聞きしていきます。今作はいつ頃から着手して、コンセプトを固めていったんですか?

NEWLY:前作をリリースした辺りから考えてはいましたけど、次に作るのはインストで展開があるものにしたいなと思っていました。ワンループは終わらない、ビートテープではないインストを作りたかったんですよ。ただ、言葉がない分意味のない展開はしたくなくて、ただカッコいいものというのは自分の中で腑に落ちなくて……。だから、1曲ずつ物語を作って、主人公がこういう局面だから、この曲はこうやって展開していこうと考えたのと、言葉以外の方法で聴き手とコミュニケーションを取りたいと思ったんですよね。

言葉以外のコミュニケーションか、難しいですね。

NEWLY:それって普段の自分と似ていて。友達と一緒にいても言葉で諭すようなことはしないし、向いてない。だからこそ、言葉と違う方法を取るのであれば、自分の中では言葉にしておいた方がいいなと思ったんです。聴き手の皆さんには、「なんかいいね」と思ってもらえればいいけど、その「なんか」は自分の中では言語化できてないといけないなって。

それは、大きな成長ですね。実は、ちゃんと言葉紡げる人ですもんね。

NEWLY:(笑)。伝えるのは下手なだけですね。言おうと思ったら、言えるんだと思う。

伝えたいなとは思わない?

NEWLY:『Not About All』をリリースして数ヶ月経ったけど、シナリオを見せたくなってますよ。

それは、公開してほしい。あと、今作は信頼するミュージシャンとの邂逅も素晴らしいものがあったと思います。TENDREやyuya saito(yonawo)など、腕利きのミュージシャンが集まりましたね。

NEWLY:割と自然発生なんですけど、制作が進んでいく過程で、他のミュージシャンが入っても自分の音に出来ると思えるようになって。別に自分でピアノを弾かなくてもNEWLYの世界観に出来るし、そうしてくれるミュージシャンが周りにいるから、お願いしたいと思って。 TENDREさんは元々「何か一緒にやろう」と言ってくれていたり、

あとは、寺久保伶矢は大学の後輩で家が近くて、制作しているときに遊びに来たのでソロを弾いてもらったり、yuyaくんもレコーディング当日にギターは自分じゃない方がいいと思って、「今から来れる?」と連絡したら来てくれたり、本当にそんな感じです。

いいですね(笑)。

NEWLY:皆さんには、こういうのを弾いてほしいっていう時にデモで僕が弾いたものを入れているんだけど、割と皆さんの世界観に任せているところがあって。シナリオを伝えて、「こういう物語で、ここで登場する音です」と教えるとその通りにやってくれるから。それがすごく面白かったですよ。この人には、こういう景色が見えているんだというか。純粋に「海」と伝えても、夕日の人もいるし、朝の人もいる、それがすごく楽しかったです。

なるほど。今作は9曲入りですけど、1曲ずつに物語があるのか、通して1本なのか、それはどっちですか?

NEWLY:通して一つの作品です。1曲、1曲がキャプチャーになっています。

表現した物語はどういうものだったんですか?

NEWLY:心象風景の中を旅する話を作りたくて。その中で過去や未来、時間軸の概念を最終的には壊していく話ですね。というのも、おばあちゃんの家にある自分の先祖の写真とかを見て、「こういう人だったよね」みたいな話をするじゃないですか。そんな時にすごくいい話を聞いたりすると、会ってみたかったなと思ったりするけど、その一方で誰かにとっては悪者だったタイミングがあっただろうなとか、本当はもっとみんなが知らない話があったりとか、忘れていることがあったりするだろうなとも思ったんです。その中で会ったことのない自分にいい話を話すというのが、すごくいいことだと思ったんです。

なるほど。

NEWLY:それって過去を改ざんしてもいいというか。写真のフレームの外は勝手に想像していいということだよなって思ったんですよ。だから自分の過去も頭の中では改ざんしてもいいって思える、そんな話ですね。難しいけど……。

それって今を生きる自分たちにも大切な考えかもしれない。嫌なことをずっと覚えていても仕方ないし、楽しい思い出にもっと浸って生きてもいいってことですよね? このタイミングでその物語にたどり着いたのは何でなんだろう?

NEWLY:うーん、縛りが多くなったからかもしれない。自分がこう言ってしまったからこうしなきゃいけないとか、自分がこういうスタンスを取ったからとか、過去にした辛いと思っていない経験も辛い経験にいつの間にか変わってしまったり、人生って色々と渦を巻いていくと思うんですけど、そういう部分ももっと気楽でいいやと思う反面、受け止めて生きていかないという気持ちがあるのかなと。でも、「そういう生き方でいいよ」と言うつもりもないし、自分もそうは思ってないから、『Not About All』というタイトルにした。これが全てじゃないよって。

一つの考え方として持ってもいいよね?という提案。

NEWLY:そうです。

前作のインタビューで「コード1つ1つに個人的なイメージがあって、そこから思い浮かぶ景色や情景、感情などに合うフレーズをつけていくことが多い」と話してくれたんだけど、それがよりブラッシュアップされたのが、本作なのかなといま話を聞いて思いました。

NEWLY:技術も上がっているし、その情景や景色の解像度も上がっている気がします。例えば、映画のラブシーンでこんな音を?というミスマッチなサウンドトラックとかがあったりしますけど、そういう部分にグッと来たりとか。そこは前作を作った時、21歳だった自分とはまた違った感性だし、物事の捉え方も変わったんだろうなと思います。

声も一つの楽器として扱う

改めて、制作してみて推し曲だったり、一方で産みの苦しみを感じたものだったりはありますか?

NEWLY:全曲に産みの苦しみはそれぞれあって。レコーディングや制作中のノートや映像を見返すと、変だなって思うことはたくさんあるんですけど、別に苦しんで作る必要もないなとも思った。もっとパッと出たものを信じれる力をつけたいなと思いました。ただ、後半6曲目くらいからは自分の中でも新鮮です。

それは自信があるから?

NEWLY:うーん、単純に良くない?って言える。どう思う?って聴き手に問える感じがする。

それも成長かもしれないね。新たな一面で言うと1曲目の「Poppy Field」でご自身の声をついに出しましたね。

NEWLY:メロディを鼻歌で録ったりするんですけど、楽器に差し替える用にリフを声で録っておいたりするんですよ。それが今回はこのままでいいじゃんと思って。でも恥ずかしいなと思ったから、ずっと置いておいたんですよ、何年も。ただ、ほぼ完成しているデモ音源は友達に配って普段聴きしてもらって、自分も聴いて馴染んできたから、出しちゃおうと思ったんです。

抵抗がなくなったんだ。今後も自分の声を出すつもりは?

NEWLY:ありそうですね。実は自分の声、嫌いじゃない(笑)。

(笑)。

NEWLY:昔は嫌いだったし、難しいなと思いますし、今後も自分の声で歌うつもりはないんですけど、声も楽器みたいなものだなと。家にあるギター、ベース、ピアノ、体も楽器として使おうと思えた。

それはめちゃくちゃ思いました。声も楽器として扱えるのがNEWLYさんで。ある種、このアルバムはNEWLYの音楽性の転換点だなと。可能性がさらに広がったなって。

NEWLY:本当ですか?! 嬉しい。

声で言うと、今作はふたりの女性シンガーもボーカルとして作品に登場しますね。

NEWLY:Madness Pin DropsとLil Summerですね。まず、Madnessは、元々すごく好きな歌声で過去に海の曲をふたりで作っていたんですけど、ずっと自分のPCの中に眠っていて。そんな背景がありつつ「Waterscape」を作っている時に、そのことを思い出して、データを開くとBPMとキーが全く一緒だったので、貼り付けて、「この曲覚えてますか?使わせてください」と連絡して、制作したのが「Dear. Ocean」ですね。だから前からあった曲です。

Lil Summerは初めて会った時に音楽の趣味が近くて意気投合して、コーラスを頼みました。すごく声がマッチして「Waterscape」の世界観を広げてくれたなと思います。

あと個人的な推し曲は、4曲目の「Freefall」なんですけど、KenTさんの演奏が抜群でしたね。

NEWLY:僕も好きなんですよ! KenTさんのソロが本当にカッコいいですよね。これはダブと言っていいのか分からないんだけど、広がりがある中でベースやドラムはカートゥーンデフォルメされたというか、そういうものを作りたいんですよ。分かります?

アニメの中のバンド的な?

NEWLY:そう、アニメ化したジャズバンドみたいな質感にしたかったので、ドラムもベースもシンプルなフレーズだけどカッコいいものにしたかったので、推しと言ってもらえて嬉しいです。今作は、全然自分でも家で聴くんですよ。これって過去にはあまりない感覚で。

それってなんでなんだろう。納得な仕上がりなのか、単純に自分が好きなものなのか。

NEWLY:作っているときは集中しているから聴こえ方が違ったと思うんですけど、今は自分の手を離れて、物体的というか、物質的に聴こえているというか。

満を持して、フィジカル版をリリース

物質的という言葉が出ましたけど、今作はフィジカルでCD、レコード、カセットがリリースされますよね。手元に残るものとして、リリースされるわけですけど、いかがですか?

NEWLY:それはめちゃくちゃ嬉しいです。ワクワクしました家に届く時も。置き配にしてもらったんですけど、玄関で待ってました(笑)。ジャケットの印刷もめちゃくちゃ綺麗だったし、音も良かったし、フィジカルになることのいいことって、音が質量をもつことだと思うんです。そしてここでしか鳴ってないということはすごくいいことだと思うから、皆さんにそっと大事にしてもらえそうなものが出来たなと思います。

改めて、『Not About All』をどんな人に聴いてほしいと思っていますか?

NEWLY:本当に気楽に。言葉以外のコミュニケーションってそんなに難しいことではなくて、目の感じや部屋の温度、そういうもので人の感情って伝わったりするじゃないですか。そうやってみんながキャッチできるコミュニケーションと同じ方法を使って今作を作ったので、気楽にメッセージを受け取ってくれたら、楽しめるんじゃないかなと思います。あと、今作はシャッフルしないで聴いてほしいです! 多分、シャッフルしちゃうと分からないと思うので……(笑)。

ここで恒例の質問をさせてください。媒体名である、Lotusは直訳すると花の蓮という意味になります。本作を花や植物に例えるならどんなイメージになりますか?

NEWLY:めちゃくちゃ難しいですね〜。でも、ハナカンザシがいいかもしれません。花言葉は温厚・変わらぬ思い。表面の質感も合っている気がします。紙のような質感を持っているみたいで、英語だとピンクペーパーデイジーって言うみたいです。これにします!

ありがとうございます。最後に今後についても聞かせてください。

NEWLY:とりあえず、6月15日にWALL&WALLでワンマンをします! なので、ぜひ来てください。とにかくライブを頑張りたいんですよね。いまはバンドセットでライブをやっていて、ライブをすることで曲の解釈を広げていけるし、聴いているみなさんも楽しめるものを作っているので、記事を読んでいる方には来ていただいて、ブッキングの方はブッキングしていただいて、ライブをやらせてください! どこにでも行きます!

ライブ、楽しみです。大きな野望みたいなものはありますか?

NEWLY:自分から広がる波紋を目で見たいです。

TEXT 笹谷淳介

PHOTO Kei Sakuhara

NEWLY – Poppy Field
https://youtu.be/NUXd45oEUZk

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締め切り:5月9日(金)23時59分

たくさんのご応募お待ちしております!

ライブ情報

NEWLY ONEMAN LIVE “Not About All”

DATE:6/15 (SUN)
OPEN/START:17:15/18:00

NEWLY [Mani/Ba]
ryo takahashi(Pistachio Studio) [perc]
yuya saito(yonawo) [Gt]
KenT(Soulflex) [Sax/Fl]
寺久保伶矢 [Trp]
窪田大志 [Dr]

DOOR:¥4,800 + 1Drink
ADV:¥4,000 + 1Drink

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アーティスト情報

コンポーザー/アレンジャー/プレイヤー。 ベースをメインにマルチ・インストゥルメンタル奏者として活動中。

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