【インタビュー】LONGMAN、声を上げない人の目線で書いた「Silence」はライブをけん引する曲
愛媛出身の3人組ツインボーカルパンクバンド LONGMANが10月30日に新曲『Silence』をリリースした。この曲はバンドが掲げていた2ビートとスカがふんだんに入ったストレートなナンバーとなっている。歌詞は「グレーを許さない世界に未来はない」というひらい(Gt/Vo)の直球な思いが反映され、さわ(Ba/Vo)も「ひらいさんが芯に持っているものをここまでさらけ出したのは初めてでは」と語る。昨年「パンクロックをお茶の間に」というテーマを掲げて、TVアニメ『無職転生Ⅱ ~異世界行ったら本気だす~』オープニングテーマになり大きな話題を呼んだ『spiral』を含むアルバム『10/4』を作った彼らは、2024年は原点であるパンクロックにこだわったという。11月20日からはこの新曲を携えて、彼らが尊敬するバンドと2マンライブ『2ビート寿司』を開催中。新曲とツアーにかける思いをメンバーのひらい、さわ、ほりほり(Dr)の3人に話を聞いた。
ザ・パンクロックをやりたかった
10月30日にリリースされた英語の歌詞の『Silence』は疾走感があって、強いメッセージを感じる楽曲ですが、この歌詞にはどういった背景があるのでしょうか。
ひらい:最近の世の中を見ると、黒か白で決めつける風潮があると感じていて。個人的には、グレーを許さない世界には未来がないんじゃないかなと思っています。もっとアバウトでいいのに。SNSとか見ていても、決めつけないでグレーでもいいよなと思うことが多かったので、そこに一石を投じました。
今は2極化の傾向があって、どちらかに属さないといけないといった風潮があるような気がします。
ひらい:そうですね。でも本当は少数でも声が大きいと、あたかも大多数の意見のように聞こえますが、実際にはそうでないこともたくさんある、と思っています。だから今回は声を上げない人からの目線で曲を書いて、『Silence』というタイトルにしました。
さわさんはこの曲に対してどんな印象を抱かれましたか?
さわ:歌詞を見た時に、結構パンクだなと思いました。前までの歌詞は、感情を隠しがちというか、大胆に出すことはあまりなかったかなと私は感じていて。今回は「これが僕たちの正義だよ」とか、ひらいさんの芯にある思いを、これまで以上にさらけ出しているように感じました。…なにか上から目線みたいな感じになっているかもしれないのですが(笑)。
確かにかなり思いがあふれる歌詞ですよね。
ひらい:でもこの曲のメッセージを要約すると、「うまいことやろうや」「仲良くしようや」といったことなんです(笑)。グレーを認めるというのは、僕にとってそういうことなんです。
ほりほりさんは、『Silence』が言っているグレーについて、どのように感じますか?
ほりほり:別に本人が良ければいいと思うんですよね。例えばSNSなどもそうなんですけど、自分の思想を押し付けがちだと思っていて。『Silence』には、人には人の感覚があるし、自分には自分の感覚があるんだから、お互いを尊重していこう、というメッセージが込められているのかなと感じました。
そして今回はひらいさんがメインのボーカルを担当されていますね。
ひらい:昔はさわちゃんが多かったんですけど、僕もやっぱりいっぱい歌ってきて楽しくなってきて、自分の声に合う曲も少しずつ分かるようになってきたんです。この曲に関してはもちろん2人でどっちのパターンも試したんですけれど、曲の攻撃的な部分などは僕の声の方がマッチした気がしたので主旋律をやって、さわちゃんには、初めて下ハモもやってもらいました。
さわ:下ハモをするのは初めてだったんです。配信されてエゴサーチをしていたら、「さわちゃんの声はどこ?」みたいな感じで、あまり気づかれていなくて。それほど馴染んでいたんだというのは、新しい発見でした。
ひらい:最近は最後に歌い手を決めるという方法を取っています。
去年は全12曲それぞれに主人公がいるというコンセプトのアルバム『10/4』をリリースされましたが、2024年は楽曲制作に対してどんなスタンスだったのでしょうか?
ほりほり:「露骨にパンクなことをやろう」というのは、僕らの中でありましたね。アルバムを制作して、その次の制作はどうしようという時に、ザ・パンクロックみたいな。パンクロック好きがわかりやすいような曲を作ろう、というスタンスで『Silence』は進んでいました。
ひらい:いい意味で、一度リセットしたいと思ったんです。去年TVアニメ『無職転生Ⅱ ~異世界行ったら本気だす~』のオープニングテーマで『spiral』という曲を出させていただいて、本当にありがたいことにたくさんの方に届いたのがすごく嬉しくて。この『spiral』をきっかけに、「パンクロックをお茶の間に」というテーマを掲げて『10/4』というアルバム作ったんです。パンクの諸先輩方が積み上げてきたものをただ踏襲するのではなくて、今の音楽、僕らの感覚とかも取り入れて、新しいものとしてお茶の間にも広がるような作品にしたい、という思いがありました。
それもたくさんの方に聴いていただいて嬉しかったんですけれど、やはりテーマとしていた「パンクロックをお茶の間に」というところには届かなかったんですよ。そこは悔しい。じゃあ次はどうしようとなった時に、曲やライブには自信があるので一旦振り切って、いい意味でリセットして、今の僕らの感覚で原点回帰しようと思いました。
だから2ビートとスカという、もともと僕らがテーマとしていたものを組み入れて、今のLONGMANを出させてもらったという感じです。それをわかりやすくお客さんにも見てもらいたかったので、『2ビート寿司』というツアーも行うことになりました。
やはり去年のアルバム制作が大きかった分、今年はバンドのあり方を改めて考えたということですか。
ひらい:そうですね。本当にいい意味で一旦燃え尽きて。やはりすごく時間をかけて『10/4』を作ったので、次は力技で行ってみようと思いました(笑)。
原点回帰と新しいLONGMANが共存
1回リセットして今回『Silence』を作られて、どんな手ごたえがありましたか?
さわ:単純にベースラインをかっこよく作れるようになったな、というのはあります。昔は結構足し算でやりすぎちゃう部分もあって。今回は本当にバランスよくできたなと思いますね。
うまく抜けるようになった感じですか?
さわ:そうです。自分の中でベースラインの引き算がちゃんとできるようになったな、と。ギター、ドラムにちゃんと寄り添ったものになったと思います。
ひらいさんは一緒にやっていて、さわさんの変化はどんなふうに感じられますか?
ひらい:いやあ、いろいろうまくなったなと思います(笑)。スカのベースラインとか面白いなと思うし。今回、原点回帰はテーマとして掲げていたけれど、そこにとどまりたくはなかったので。多分20歳の時にこの曲を作れるかといったら、絶対に作れないと思うし。根本は残しつつ、今の僕らの能力だったり感覚で、新しいLONGMANを出せたんじゃないかなと思っています。
あとファンの人の声を拝見すると、『Silence』はライブでの映え方に期待している人が多いですね。
ひらい:そうですね。昔はライブを意識して作ることがあまりなかったんですけれど。この曲はみんなで歌えたらいいなと思っていて。だからライブでやるのも楽しみです。
さわ:最初にデモが送られてきた時点で、早くライブでやりたいと思いました。
オーディエンスが声を出すところもわかりやすいです。
ひらい:10-FEETのライブを観に行かせていただいた時に、意外と合いの手が多いと気づいたんです。これはお客さんも楽しいだろうし、演者も楽しめるなと思って。僕らはこれまであまりやってこなかったので、そういうのも意識しました。
参加している側としては、自分たちも加わっているという仲間感があります。
ひらい:そうですね、その思いが強すぎたのか、ちょっと“イエーイ”がでかすぎて反省しています。もうちょっと下げても良かったかなと。(笑)
ほりほり:お客さん的には大きいからこそ、わかりやすくできるんじゃない?
ひらい:そう思ったんだけれど、なんか大きいな、という気もして(笑)。あと1デシベルくらい下げたら良かった。
作り手としては、全体のトータルで考えますよね。そして今、曲の雰囲気のお話を伺いましたけれども、プレイヤーとしてほりほりさんはこの曲を叩いていていかがですか?
ほりほり:2ビートはドラマー的には楽しいんですよ。やり始めた頃は難しかったんですけれど、慣れてずっとビートでライブをやっていくうちに、癖になるんですよね。ライブのセトリ次第では、あまり2ビートがない時とかもあって。でも最近は結構2ビートの曲が増えたし、2ビートを叩けることに喜びを感じ始めました。この曲とかも2ビートが多いし、僕らがやりたいスカの要素もありますし。
曲の内容的には原点回帰ですね。僕も最初にLONGMANでやりたいかったことを、すごく楽しくできていますし。かと言って難しいことはあまりしなくて。わかりやすく2ビートとスカみたいな感じで、すんなり叩けるし、シンプルで僕は好きです。
パンクスを感じる先輩方と作るツアー
さらに今回この曲をひっさげた2マンライブツアーを開催中ですが、今回はどんなイメージのツアーになりそうですか?
ひらい:コロナ禍と前回のツアーを経て、改めてわちゃわちゃしたフロアが好きだなと感じて。個人的にパンクロックは1番ライブハウスが似合うと思っています。だからこそこの冠を掲げたツアーをやりたいな、と考えたのが原点でしたね。
今回一緒に出ていただくバンドは、どんな理由でお願いしたのでしょうか?
ひらい:locofrankだったりEGG BRAINだったり、その世代の方々が築いてくれたシーンで僕らも育ってきていたので、そういった方々と今回ご一緒したいという思いがありました。
アティテュードみたいなところで、共通点があるということでしょうか。
ひらい:そうです。あの方々がいて僕らがいるので、そのリスペクトも込めています。BACK LIFTは一応同世代ではあるんですけれど、バンド歴で言うとやっぱ大先輩ですから。
さきほどコロナ禍を経て、とおっしゃっていましたけれども、そういったことを経たからこそ得られた、新たな気づきになったことを教えていただけますか。
ほりほり:やはりお客さんのリアクションやレスポンスは、思っているより僕らに影響を与えるんだなと思いました。MC1つとっても、お客さんの反応がなかったら、ちゃんと届いているかもわからないし。
そういった意味で、僕たちはお客さんのためにライブをしている。当たり前のことなんですが、お客さんの心をどう動かすか、といったことをすごく意識するようになったかな。もともとは曲を聴いてもらうイメージだったんですけれど、コロナ禍を経た上で、お客さんと1つになるのが大事なんだ、ということをすごく感じて。
MCや曲の繋ぎとか、歌い方や演奏の仕方1つでお客さんのボルテージが変わってくると思うので、そういうのを上手にコントロールするのもライブなんだなということを、コロナ禍で配信ライブなどを行った時に感じました。そういう意味では、とても勉強になった気がします。
ここで本題から少し外れた質問をするのですが、私たちの媒体は『Lotus』といいます。英語で訳すと蓮の花という意味なんですけれども、この『Silence』を植物や花に例えると何になると思われますか?
ほりほり:サボテンの花ですね。サボテンはトゲトゲしているけれど、年に一度ふとした瞬間に花が咲くんです。僕はトゲトゲしているけど、実はすごくいいやつだった、みたいなのが好きで。そういうイメージに近いですかね。
さわ:私は竜舌蘭かな。「70年ぶりに咲きました」といったニュースになっていたり。
ほりほり:やっぱみんなそっち系に行くよね。何年に1回系に。
さわ:そう、竜舌蘭は数十年に1回しか咲かないらしいです。すごく背の高い植物なんですよ。それで私がやりたかったことが本当にドンピシャでできたのが『Silence』で。1番しっくりくるというか、1番これだと思ったのが『Silence』なんです。その心情が数十年に1回しか咲かない竜舌蘭に重なったと思います。
それだけこの曲は思いが強いということですね。
さわ:はい。今まで作った曲ももちろん全部好きなんですけれど、ライブを引っ張ってくれる曲というのは、その中でも限られていて。新曲を出した時は、そこからライブで成長していく、みたいなイメージなんですけれど、この間『Silence』を初めてやった時も反応が良かったですし、すでに私の中ではライブを引っ張ってくれると思える曲になりました。
それは確かに特別な曲になりますよね。
さわ:本当に曲を聴くだけでも、すごくパワーというか牽引力があるなと思ったんですけども、実際にライブでそれを感じられたのが大きいです。
ひらいさんはいかがですか?
ひらい:逆に僕はチューリップですね。
なぜですか?
ひらい:メッセージ性で言うと、最初に言ったように「みんなもっとポップに生きようよ」という思いがあって。SNSの影響なのかわからないですけど、みんなすごく気にしすぎているな、とも思うので。あまり考えなくていいと思うし。もちろんちゃんとしないといけないところはしないといけないですし、メリハリはあると思うんですけれど、もっとラフにポップな社会の方が、明るくていいんじゃないかなと思うので、チューリップだと思います。
ありがとうございます。最後にツアーに関して楽しみにしている方にメッセージをいただけますか。
ほりほり:今回のツアーは2ビートを主軸にして、皆さんが楽しんで盛り上がれる内容を目指しています。みんなでシンガロングやコールアンドレスポンスで作り上げていって、楽しめるライブをできるようにしたいです。そして対バンももちろん、そういったことを楽しめる方々を呼ばせていただきましたので、ライブハウスでしか味わえないものを楽しんでもらえるような、『2ビート寿司』ツアーになればいいなと思っています。
TEXT キャベトンコ
PHOTO Kei Sakuhara