【インタビュー】クレイジーケンバンド新作「火星」リリース。横山剣、その頭の中で鳴り続けるサウンドに迫る7000文字インタビュー
クレイジーケンバンド(以下CKB)が、9月18日、通算24枚目となるアルバム『火星』をリリースした。“ハマフェス Y165”のテーマソングとなった『ハマのビート』のほか、インタールードやお馴染みの“クレイジーケンバンド!”の合いの手を含む全16トラックが収録されている。Lotusでは、クレイジーケンバンドのサウンドマエストロであり、シンボルでもある横山剣にインタビューを行った。
タイトルである『火星』は、横山剣の思い出の場所、今はなき屋内温水プールを備えたテーマパーク “ワイルドブルーヨコハマ”の向かい側にあったという焼き肉店の名前である。たまたま近くまで赴く用事があり、己の思い出を刻んだ場所が、今どうなっているのか気になり、足を運んだという。地域一帯の再開発で、ワイルドブルーヨコハマはマンションになり、当該の焼き肉店「火星」も閉店していた。“火星”という言葉からインスパイアされ、完成に至ったという最新作『火星』。剣さんが“イイネ!”と思った瞬間、彼の頭の中には、既にツアーグッズのTシャツのデザインまで浮かんでいたのだそうだ。剣さん、やっぱ、すごいぃーね!
“火星”には文字霊(もじだま)があった
“火星”って言葉のどこに魅力を感じたんですか?
横山剣(以下:横山):響きもいいし、スペイシーなイメージもあるし。字面もいい。焼き肉屋の火星があった付近は、京浜工業地帯で夜になると工場の灯とか、道路の外灯とかが点在して、ちょっとスペイシーな風景になるんですよ。それを思い出してね。
ちょっと近未来的な風景?
横山:そうそう。“火星”って言葉が出て来たきっかけは、焼肉屋さんの閉店だったんだけど、元々、自分の中にあった光景が蘇った。で、今回のアルバムの中にもテクノ的サウンドがあったり、スペイシーな曲があったから、アルバムのタイトルにもいいな、と。音霊(おとだま)、言霊(ことだま)ってあるとして、もし文字霊(もじだま)ってあるとしたら、“火星”って文字は、すごく“だま”が強いなと思ったんですよ。
“火星”って閃いた時点で、いわゆるインタールードの『Overture』や『Trans Solar System Express』は出揃っていたんですか?
横山:そこはタイトルが決まってからですね。スペイシーってキーワードが出て来たので、そこから押し出された感じでしたね。
近未来のイメージ、特に風景にした時って、昔と今と風景変わらないように思います。いわゆる“サイバーパンク系”と呼ばれるようなアニメを観ててそう感じるんですけど。ただ、小さな頃は、21世紀になったら空にチューブが通って、そこを車が走っているだろうと。なぜかまったく疑わず信じていました。
横山:(笑)……僕も思っていましたね。実際は、21世紀になっても空を車で走るようにはなってませんけど(笑)。でも、中学生の頃とか“電気自動車が出てくるんじゃないか”と思っていましたね。あと携帯電話とかも。『サンダーバード』(註:1965年から1966年に英国で放送されていた人形劇による特撮テレビ番組。日本でも放送され人気があった)で腕時計みたいなのを通信機器として使っていて、腕時計に向かって話しているシーンが出てくるんですけど、そこは本当にそうなっていますよね。
確かに!想像していた近未来になっているものもありますね。
横山:あとはAIとかね、気がついたら生活の中に入っている。
そういうアイテムを率先して生活に取り入れていくタイプですか?
横山:必要に迫られたらって感じです。スマホも必要に迫られるまでは使わずに、ずっとガラケーだったんですけど、いよいよないとまずいなと2年くらい前に思いまして。昨年からスマホに(笑)。ディズニーランドもコンサートも、スマホがないとお話にならないんですよ。
電子チケットの普及ですね。
横山:そうそう。コンサート行きたいって思っても、紙チケットがない時もあって。もうスマホがないと行けないじゃん、これはダメだと思ってスマホに変えたんです。なんかこう……スマホもそうだけど、必要に迫られてっていう状態が、結構好きですね。
横山剣による自分の歌とバンドの分析
そうなんですね。結構、意外です。歌詞のイメージやライブから拝見した印象とは違う一面というか。慎重で分析派なんですね。もっとこう…自由人なイメージがありました(一同笑)。
横山:(笑)。そうですね、曲の中ではわりと、自由人なキャラかもしれない(一同笑)。
そういう慎重なスタンスは音楽に対してもありますか? CKBの音楽って、CKBにしか出せない日本のブラックミュージックだなぁと思うんですよ。日本語でしかできないルーツミュージック。
横山:嬉しいですね。日本語でしかできないってところは、特化しているところではあるなと思います。音楽性に関しては、最新の音楽であれ、古い音楽であれ、自分に響くものであればいい。昔の曲なのに新しく聴こえたりとかすることってたくさんあるから。自分の中でフレッシュであれば、時代やトレンドは関係ないんですよ。ただ、トレンドをね、こう……ちょっとまぶすのは好きですね。頑固にこうじゃなきゃみたいなのがないから。ちょっと話が変わっちゃうんですが、曲ができたけど歌えない曲ってあるんですね。
ご自分で歌えないってことですよね? キーとかの問題ですか?
横山:その通り、キーの問題。僕、すごくレンジが狭いから。
いやいやいや、そうですか?
横山:そうなんです。
自分に厳しすぎません?
横山:いやぁ……これ、俺の声じゃなかったらもっといい曲になるのにって思うこと、本当にいっぱいあるんですよね。レンジが狭かったから、元々は、作曲家になりたかったんです。プロデューサーとして自分を見た時に、歌に対しては“ちょっとなぁ…”って、厳しいジャッジだったんです。だから人に歌って欲しいと思って、中学3年生くらいから、レコ―ド会社とかに曲を売り込んでいたんでたんですけど、誰も歌ってくれないし採用してくれない。じゃあシンガーソングライターになるかってことで、自分で歌うようになったんですよ。それで、バンドである程度頑張ってから、曲を作ってくださいってオファーが来るようになった。
横山さんの中で、音楽をやるために、シンガーソングライターではなく、バンドである必要性があったんでしょうか?
横山:シンガーソングライターっていう形のソロよりも、バンドの方が自由だっていうのが分かったんです。究極のソロをやりたかったんですよ。ソロだと、その都度、バックミュージシャンを雇わなきゃなんないですよね。それだと、自分の思う音にならないし、ソロでは無理だと気が付いた。だから自分専用の楽団を作ろう、と。例えば、バートバカラックとかそうですよね。つまり、ソロ以上に自分のお気に入りの音を出してくれる人が、適材適所に必要だったんですね。最初、5~6人の編成だった時は、自分の頭で鳴っている音と出ている音のギャップがすごく大きくて。このままだとまずいなって、メンバー増やして。パーカッションがいて、ホーンセクションいてっていう、今の10人以上の編成になったんですよ。
CKBのサウンドの中で、ホーンセクション、あとストリングスってすごく大事ですよね。
横山:大事ですね。賑やかしのためのホーンセクションじゃないから。曲によって演奏している人数が変わるというか。10人以上いても、3人の演奏でいい曲もある。それはいつも楽曲が頂点にあると思っているからなんですよ。まずは楽曲ありき。そう考えると、すべてが適材適所に配置できる。ベストポジションが明確にわかってくるんですね。
つまり、ポジションを決める、曲のスターティングメンバーを決めるのが横山さんの役割だったりするということ?
横山:うん、そうです、そうです。そういう役割もあります。
曲は作るんじゃなくて“出てくる”もの
横山剣・監督ですね(笑)。今回のアルバム資料にあった、セルフライナーノーツを拝読したんですけど“ふっと浮かんだ”とか“出て来た”とかという言葉を多く使ってらっしゃって。
横山:はい、はい。
それはつまり、曲は作るものじゃない、曲を作ろうって感覚はないってことになるんでしょうか?
横山:作るんじゃないんですよね。出てくる。だから、浮かぶ時は浮かぶし、浮かばない時はなにをしても浮かばない。
ですよね(笑)。では、曲を作るのではなく、己の中から出すために、しているアクションはありますか? 例えば、ちょっと出かけてみたりとか、シチュエーションを変えたりとか。
横山:運転したりですね。ちょっとしたきっかけがあると、そのきっかけによって、押し出させるっていうのはありますね。だからそのきっかけを作ってあげるような感じ。例えば、旅行に行ったら、その帰りの飛行機の中で曲が出て来たりする。ちょっとしたひとことや、言葉……今回だったら、火星ってワードで曲が全部浮かんでくるっていうのがありますね。あとは、人の曲を聴いていて、バッキング(註:歌以外のバックのサウンドのこと)で全然違うメロディーが浮かんできたりとか。
小学生時代からサウンド・マシーン
すごいですね。それってヒップホップの手法にもちょっと通じますね。
横山:そう。バックトラックから曲を作るって手法は、ヒップホップが出て来てから。それこそR&Bやレゲエとかでもやっていたことで。そこを小学5年の時からやっていたんです。
え?
横山:バックトラックを聴いてメロディを作っていくっていうのを。
ちょっと待ってください。横山さんが小学生の時って、パソコンのソフトはもちろん、録音機材でマルチトラックとかなかったですよね?
横山:ないです!
えーと……つまりカセットを使って曲作り、録音を?
横山:そう!正解。2台のカセットで録音して作っていたんですよね。だから、ダビングする度にどんどん音が劣化していく(笑)。
はははははははは(大爆笑)。音を増やすために録音を重ねる度に、雑音が入って来て最初の音の輪郭がぼやけていくっていうことですね。
横山:そうそう。ラインなんかないし知らないし、外音で録音するわけだからね。もうね、最終的にできあがったものは、もう自分にしかわからないものに(笑)。
一同:はははははは(大爆笑)。
横山:曲がいいとか悪い以前に、わからない曲になってる(笑)。
“今から録音するからお母さん、静かにして”とかいいながらの録音、曲作りだったということですよね?
横山:そう。あります、1曲。“今、録音してるんだから!”って入っている曲。YouTuberとかで配信してて、お母さんが見切れて入って来ちゃうような、あぁいう感じ。よくありましたね。だいたいお母さんでした(一同笑)。