【ライブレポート】Deep Sea Diving Club、東福ツアー開催。スキルとシームレスな音楽性をダイナミックに体現したライブから紐解く、彼らの現在地
Deep Sea Diving Clubの魅力とは?
福岡発のバンドDeep Sea Diving Club(以下DSDC)が6月14日(金)、下北沢ADRIFTで『Unite-Love Tour』の東京公演を開催した。昨年デビューしたDSDCは良質な音楽を届け続ける男性4人組バンドだ。デビュー前から「Left Alone feat.土岐麻子」(2022年)で土岐麻子と共演するなど、早耳の音楽リスナーの注目を集めてきた。谷颯太(Vo)、出原昌平(Dr, Cho)、鳥飼悟志(B, Cho)、大井隆寛(G, Cho)の4人が作り出す楽曲は、洒脱なメロディー、隙の無いアレンジ、サウンドの抜き差しでみせる楽曲のストーリー性、間奏でギターソロをしっかり聴かせるバンドらしい構成など、その魅力をあげたらきりがないが、最大の魅力は4人の多彩なルーツが1曲1曲からしっかり感じられるところだろう。
今や、日本の音楽シーンの中でもひとつのジャンルになった感のある“シティポップ(ネオ・シティポップ)”は、70年~80年代、当時の若者たちが、アメリカ西海岸のオシャレな雰囲気への憧憬が、音楽や服装までを含み、ひとつのカルチャーとして確立されたものだ。DSDCの音楽は、ジャンルレスというより、時代もジャンルも超えたシームレスに近い。ファンク、R&B、ソウル、フュージョン、AOR、ブラックコンテンポラリー、ネオアコ、ジャズ、そして時にドメスティックなメロディーも登場するその音楽性は、おそらく前述した“シティポップ”の背景をしっかり自分達なりに解釈し、咀嚼し、昇華しているからに他ならない。
音源では見えてこないダイナミズム アドリブで魅せる演奏スキル、谷の歌声の魅力
ライヴはグルーヴィーなアップチューン『SUNSET CHEEKS』で幕を開けた。キーボードのサポートメンバー中野ひよりを含む、バンドメンバーが登場し、演奏を始めた中、ボーカルの谷が「調子どうですか!」とステージに姿を現す。サビでは客席からクラップが起こった。出原のカウントから『フーリッシュサマー』へ。
途中の<日差しに>というフレーズに合わせ、谷が左手を目の前にかざし、眩しそうにライトを見る。「自由に踊っていきましょう」と序盤は、グルーヴが際立ったアップチューンを続ける。驚いたのは、バンドアンサンブルのダイナミズムだ。音源とはまったく違った表情を見せる。
骨太なファンク、スームースなソウルのグルーヴ、バウンシーなアプローチ、どこからがアドリブかわからないインプロビゼーションを随所に挟み込むなど、メンバーの演奏スキルが炸裂。谷が時折パっとバンドメンバーの方を向き“お、やってるねぇ”みたいな笑顔の後、“イエーッ”とシャウトする姿を見て、こちらも“今、ベースがアドリブ入れたんだな”と想像出来た。そんな瞬間が何度もあったが、この瞬間は、間違いなくDSDCのライヴの最大の醍醐味だろう。
アドリブを長くとらず、スッと原曲のフレーズに移行していくのも滑らかで、このバンドが、いかに音楽を楽しみながら演奏することを積み重ねてきたことがわかる。ステージ上にいるメンバーたちが、じつに生き生きとしていて楽しそうなのだ。このムードが会場に充満し、観客をどんどん高揚させ、開放していく。
中盤はミディアム&バラードを中心に披露。このブロックでの見どころ(聴きどころ)は、なんといっても谷のボーカル力だろう。フィリ―ソウルを思わせる『FLACTAL』での綺麗なファルセットは母音の置き方や抜き方で多彩なニュアンスを見せる。音源ではエレクトロニカなリズムとメロディーが別軸で進行する『lostpeople』では、ピアノをフィーチャーしたアレンジを展開。歌い出しからしばらくは最小限のバックサウンドだけで、ほぼアカペラ状態で中低音~中高音の声質の良さを印象付ける。谷の歌声は、シルキー一歩手前のクリアさが魅力だ。
ゆえに、ソウルフルなアプローチでこぶしをつけるアプローチをしても、ソウル独特の湿度を引きずらない。これはソウルマナー然としたフレーズや、バンドアンサンブルを取り入れながらも、泥臭くないポップスを放つことができるDSDCの個性だ。谷は、例えば、トーンでも、最初は喉の奥で低音で歪んだように響かせ、その後、喉の前に出してくる時にガラリと声質を変えて発することができる。マイクコントロールも大げさではないが抜群で、口から遠く離すことはあまりなかったが、非常に細かく口元から横にずらし、それが言葉の切れの良さ、もっと言ってしまえば、バンドのグルーヴに一役かっていたように思う。
「ユニラブ」に込められた想い “東京ルーキーなんでこれからもよろしく”
ライヴは後半へ。最新曲『ユニラブ』の作詞・作曲を手掛けた鳥飼がマイクをとった。親友が亡くなったことに触れ、それは誰にでもあることだけど、自分にとってはとても大きなことだったと言った後、こう語った。
「替えが効かない LOVE、それぞれがそういうものを持っているんじゃないかなって。そんな思いで作りました」
谷はひとことひとことを丁寧にそして力強く歌った。谷が「今日はありがとうございます!最後の曲です」と『bubbles』へ。会場が照明で濃いブルーに染まる。ミラーボールの光の破片が、ステージと観客に降り注いだ。
アンコールでは「東京ルーキーなんでこれからもよろしく」と、今年になって上京した自分達の現状に触れて観客を笑わせる。「最後ははっちゃけていこう!」と『T.G.I.F.』。途中でダヴのアプローチも見せる彼らのルーツの幅広さを感じる1曲だ。観客はそれぞれ自由にDSDCの音楽に身を任せ揺れている。谷は両手でマイクを握りしめ真っ直ぐな歌声でぐいぐい攻めてくる。曲のラストで「最後に皆様、自分自身に拍手を」と言い、この日1番のファルセットをエモーショナルに響かせた。
本ツアーは6月5日にデジタルリリースされた最新曲『ユニラブ』のリリースツアーだ。6月28日(金)には、彼らの出身である福kawara CAFE 福岡PARCO店でのライヴも決まっている。東京公演とは、セットリストも違ってくるそうだ。今のうちに、彼らのポップで、ダンサブルで、そして多幸感あふれるライヴを体験しておいてほしい。
音源だけでは見えてこない、生き物としての音楽をとことん楽しむDeep Sea Diving Clubの姿から、きっとあなたもエネルギーをもらえるはずだから。
TEXT 伊藤亜希
PHOTO AOI
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