【ライブレポート】ギタリスト&シンガーソングライターの森 大翔、誕生日にワンマンライブ『森 大翔LIVE「A day of YAMATO 69/24」』を開催!
ライブをするたびに、今が人生で一番だなと思います
本人がステージに立つ前から、手を叩きながら「大翔!」と名前を呼ぶ老若男女の声が響き渡っている。会場のライトが消えた瞬間、歓声のボリュームが一気に大きくなる。この日を待ち侘びていた人たちに迎えられてステージに上がり、「こんばんは、森 大翔です」と丁寧に挨拶をしてから、スポットライトの下でギターを爪弾いて、音を鳴らし始める。たった10本の指から、何百種類もの色が浮かび上がる。
森 大翔は、目に見える形にはならないものの力を信じ抜いているアーティストだ。どんな音を鳴らせば人の心がブワッと動くのかを熟知し、その瞬間こそが、日々を生きる上での心をほんの少し強くしてくれることも知っている。1曲目に演奏したのはデビュー曲である“日日”。〈日々の中で溢れてるこの痛みやこの虚しさを/空っぽの空に叫んでも満たされることはなく〉〈日々の中で溢れるこの想いと胸の高鳴りは/僕をどれくらい強くしてくれるのかな/次は僕の歌を風に乗せて届けたい〉と、自身が歌う理由の原点を21歳の幕開けに届けた。
アコギからエレキに持ち換えて、バンドメンバーを招いてから、“オテテツナイデ”、“すれ違ってしまった人達へ”。私たちが日々の中で、他者と絡み合って痛みや絶望を感じ、SNSやインターネットに飲み込まれる自分が虚しくなり、それでもどうにか楽しい予感がする方へ目を向けようとする、そういった複雑な心の動きを音で描いていく。〈言葉が無くとも互いを想像できるはずなんだ〉と歌って奏でるギターソロでオーディエンスの心を解きほぐしてから、柔らかくなった心に「ラララ」の合唱とともにアウトロを流し込むことで、人間の温かさを少しは信じてみたいと思えるような希望を聴き手に与えてくれる。
3曲を終えて音が鳴り止むと、「おめでとう!」の声が飛び交った。21歳の誕生日を祝う言葉とここまでの熱気に呼応するように、森は「ライブをするたびに、今が人生で一番だなと思います」とこぼした。ドラムのビートでオーディエンスの気持ちをさらに高めてから中盤へ突入。
“ラララさよなら永遠に”では左右にステップを踏み、未発表曲である“大都会とアゲハ”ではハンドマイクで歌い始めたかと思えば、長い手を大きく動かしクルッと華麗に回る。
森は、卓越したギターの演奏力やセンスと「Young Guitarist of the Year 2019 powered by Ernie Ball」(16歳以下のギタリストによるエレキギターの世界大会)で世界一を獲った功績が輝いて目立つが、やはり「ギタリスト」の範疇には収まらない、音楽とステージを愛する「ショーマン」であることを確信させた。
上京してすぐの孤独を感じていた頃に書いた“明日で待ってて”を歌い始める前には、「温かかくて優しいメロディーなんですけど、これまでは祈っている感じで、自分に言い聞かせるように歌っていた。そこから1年経って歌う意味が変わってきて、最近は自分を超えて歌えるようになった。それは僕の成長とかではなく、僕の音楽を聴いてくれるみなさんが待っていてくれるからです」と語りかけた。さらには、この日初披露の新曲も。
演奏を始める前には、「一つひとつの夏に落とし物をしている気がしていて。海を見た時の感動だったり、友達との些細な会話だったり、恋だったり、夜風が吹いた時の感情だったり。夏の気配を感じると、その忘れものを思い出すことがある。それはとても温かいけど、ちょっと寂しい。そんな気持ちを曲にしました」と曲紹介を添える。この曲も、形にならないものを立ち上がらせて、音で人間の心の温度を動かそうとする、森のミュージシャンとしての真髄が軸となっていた。
21歳なりたてほやほやのギターソロ、くらえー!
終盤は「ラストスパートについてこいよ」と言わんばかりのギターソロでオーディエンスとコミュニケーションをとって、“台風の目”へ。台風の目から荒天を突き破るように真っ直ぐと声を伸ばし、蓋をしていた心をこじ開けて叫びたくなる感情にさせてから、アウトロでは固まっていた足を動かし一気に走り抜けていく様を描く。
フロアから「かっこいい!」と声がこぼれるほど、聴き手を高揚させた場面だった。そして自身いわく「森 大翔で一番ロックな曲」である未発表曲“I Thank Myself”から、最新曲であり現時点での森の魅力がもっとも凝縮されている曲といっていい“アイライ”へ。一歩一歩踏み締めるようなサウンドスケープを描き、悲しみや孤独と寄り添って、〈今より気軽に今より身軽に/いつものあなたでいて欲しいよ〉と歌うパートはサウンドも身軽にして、「人生だって一定のリズムやテンションで続かなくても大丈夫、前へ進んでいこう」と曲を通して伝えてくれるかのよう。
この日の本編を締めくくったのは“剣とパレット”。「21歳なりたてほやほやのギターソロ、くらえー!」と、すべてを出し切るようなギターソロを繰り広げて、オーディエンスの心を最高温度にまで導いてくれた。
アンコールでは、“歌になりたい”と“たいしたもんだよ”をプレゼント。さらには、秋に2枚目のフルアルバムをリリースし、東名阪ツアーを開催することを発表した。最後の“たいしたもんだよ”にも、動けずにいる場所から手を引っ張って軽やかに歩かせてくれるようなパワーが漲っていた。「これからもどんどん音楽とお近づきになりきたい」と、今後もどんな音色や旋律がどんなふうに人の心を動かすのかを探求する旅は続いていくことを宣言。〈流れ星を降らせてみせる様な〉、〈涙から花を咲かせる〉ような、音楽でしか浮かび上がらせられないものを、森 大翔はこれからも発明してくれるのだろう。
TEXT 矢島由佳子
PHOTO 高田 梓
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