
【インタビュー】「誰かの心に触れたい」役者・写真家として古屋呂敏が目指す思い

シュールで脱力感あふれるコメディ作品『サラリーマン山崎シゲル』が、FOD SHORT Original Dramaとして実写化される。その主役の1人山崎シゲルを演じるのが、俳優・フォトグラファーとして幅広く活躍する古屋呂敏だ。演技においては、理論や感情の紐付けが成立しにくい独特の台本に戸惑いながらも、相方との絶妙な掛け合いを通じて新たな表現を開拓。瞬発力が求められる現場で、「無」でいることを選び、役者としての幅を広げた。一方で、フォトグラファーとしては今年6月に写真集『MY FOCAL LENGTH』を発表。レンズを通して世界の揺らぎや個々の視点を写し取り、見る者に問いかけを投げかける写真集は、演技と並ぶ彼のもう一つの表現手段だ。今後も多彩な表現活動を通じて、さらに深い共感と新たな価値を生み出していくことが期待される古屋に、役者として、写真家としての思いを語ってもらった。
共通点ゼロの役だから逆にふっきれた
古屋さんはドラマ『サラリーマン山崎シゲル』で主役の1人である山崎シゲルを演じられます。この作品はサラリーマン山崎シゲルと部長が中心となり、オフィスで繰り広げられる不条理なギャグストーリーですが、まず役が決まられた時の気持ちを教えていただけますか?

古屋呂敏:最初に台本を読んだ時に、このシュールさを自分が狙ってやってしまうと逆に面白くないんじゃないかと、ものすごく考えました。だから難しかったです。お芝居が上手い、上手くないは関係ないというか。どちらかというとセンスを問われた感覚でした。
そしてたくさんの原作ファンの方たちがいる中で、どこまで自分が表現できるのかという不安は、やはり少しありました。
今回、相方であるキャラクターの部長を小手伸也さんが演じられるということで、2人の空気感がドラマの肝かと思いますが、一緒にやられていかがでしたか?
古屋呂敏:小手さんはずっと原作から出てきたような部長だったんですよ。だから僕としてはボールを投げるだけで、どんなボールを投げてもきれいにキャッチして投げ返してくれるし、時にはホームランを打ってくれる。小手さんのおかげで成立したし、乗り越えられたと言っても過言ではないぐらい、毎シーン助けていただいたと感じています。
役者は台本をもらったらセリフをかみ砕くんですけれど、『サラリーマン山崎シゲル』は「なぜこれを言うんだ」が一切通用しない。台詞に動機や意味を求めると理解が難しいんですよね。山崎シゲルはとんでもないことを言うし、行動も理論立てられない。「なぜ部長に対してそんなことをするんだ?」「なぜそれが許されているんだ?」みたいな感じです。
でも愛されキャラだから許される、みたいな人は一般的にもいますよね。その空気感をどうやって出すのか。そういう細かい描写は、やはり小手さんとやっていくうちに、どんどん作られていった気がします。
確かに山崎シゲルは暴走するキャラクターなので、頭で考えてはいけないのは分かります。
古屋呂敏:途中で何をやっているのかわからなくなってしまって。これはまずいと考えて、「無でいこう」と(笑)。とりあえず、まっすぐ山崎シゲルになろう、と思ってやりました。
これまで演じてきた役とはまったく違いましたか?
古屋呂敏:僕が今までいただいてきた役、出会ってきた役とはまったく違う系統ですね。
こちらの勝手なイメージですが、古屋さんご自身は分析するのがお好きなのかな、と思ったのですが。
古屋呂敏:細かく丁寧に確認するのが好きかもしれないです。そういう意味で言うと、山崎シゲルとは真逆。よく「共通点はありますか?」と聞かれるんですけれど、ゼロです。
だからこそ僕の中ではふっきれたと言いますか。ドーンとお芝居ができた気がしたので、そこは楽しかったですね。チャレンジングではありましたけれど、本当にこの役をいただけてよかった。今は原作ファンの方にもぜひ見ていただきたいと、自信を持って言えるような作品になったと思っています。
山崎シゲルを演じることによって、改めて気づいたことはありますか?
古屋呂敏:改めて僕は普通の、真っ当な人間だったというのは認識しました(笑)。
確かに(笑)。そしてドラマでは、いろいろなキャラクターが登場しますね。
古屋呂敏:すごいですよね。本当にベテランのすごい方々に支えられて撮影していました。
オリジナルの脚本ということなので、また漫画とは違った広がりがあります。
古屋呂敏:原作では縦の繋がりというか、1話1話つながりはないんですけれど、今回70本作る上で大まかな筋はできていて。そこは原作にないオリジナルの部分ではあるかなと思います。
大きなストーリーとしても楽しめるようになっているんですね。
古屋呂敏:漫画とは別軸で楽しめる部分もたくさんあるので、原作の方も新鮮な気持ちで「あ、ここはこうなっているんだ」と楽しめるかな、と思います
社長は原田泰造さんが演じられるんですね。
古屋呂敏:もう濃すぎませんか? 他にも「なぜこの役で?」と驚いてしまう警備員役で(斎藤)工さんがいらして。工さんは原作が本当にお好きで、部長役もやってみたかったそうです(笑)。さらに後輩役として加藤諒さんがいて、経理のおばさんとして、あぁ〜しらきさんもいて。いろいろな芸風の方がここにギューッといらっしゃって、こういったすばらしい方々に囲まれてお芝居できたのは幸せでしたね。
今回はショートドラマですが、長く撮るドラマと何か違いますか?
古屋呂敏:撮影スタイルに大きな違いは感じませんでしたが、長回しがなかったぶん、瞬発力はとても必要だったと思います。セリフを言うタイミングが1、2秒遅れるだけでシュールが微妙なものになってしまうので、注意してお芝居をしていました。
ドラマの企画意図は、「サラリーマンが元気のない今の時代に新しい風を吹かせたい」ということですが、サラリーマンとして働いている人たちにこのドラマはどんな風に伝わったらいいな、と思われますか?

古屋呂敏:日本人はいい意味でも悪い意味でもとても真面目だから、やはり背負いやすいですよね。だからこの『サラリーマン山崎シゲル』を見て、少しでも力を抜いてもらえたら、何よりもうれしいです。「仕事は大変だけれど、明日ももう1回行ってみるか」とか「もうちょっと頑張ってみようかな」と、ふと力を抜いて明日に向かってもらえたら、すごくいいな、という個人的なメッセージがあります。
オフィスコメディなので、皆さんに寄り添えるところ、投影しやすいこともたくさんあると思います。
ちなみにもしご自身がサラリーマンだとしたら、どんなタイプだったと思いますか?
古屋呂敏:逆にギラギラしたサラリーマンになっていたかもしれないです(笑)。「周りを蹴落として、のしやがってやるんだ」とか。
営業成績の1位をとる、みたいな。
古屋呂敏:たぶん「1番売り上げでやるぜ」と思いながら、なかなか売り上げられなくて寝込む、という人だと思います。変に力んじゃいそうです。
真面目ですよね。
古屋呂敏:僕、真面目なんですよ。根はまったく破天荒でなく心配性です。だからシゲルには本当に勇気をもらいました。「ちょっと力を抜いてもいいんじゃないの?」と、耳元でぼそっと言ってくれている気もします。
誰かの人生の1コマにいられる喜び
古屋さんは俳優とフォトグラファーという、近いけれども違う世界のお仕事をされていますが、俳優という仕事は古屋さんにとってどんな存在でしょうか?

古屋呂敏:役者の仕事は、とても稀有な体験ができると思うんです。誰かの心に触れることができるお仕事は、そんなに多くないじゃないですか。そういう意味で言うと、本当に大事な、ありがたくて楽しいお仕事です。
2足のわらじでやっているんですけれど、僕が作ったもの、出したものに対して、誰かの心に触れて、その方の心の中で何かが少しでも揺れてくれたら、すごくハッピーですし、そこが僕のゴールなんですよ。だから2つの仕事は別ベクトルではあるものの、ゴールとしては同じことをやっているという認識です。
手段が違うだけということですか?
古屋呂敏:プロセスが違うだけで、結果たどり着くところ、ゴールは一緒なんです。僕の写真を見てカメラを好きになって、その方の人生が少しでも彩りあるものになれば、それもまた1つの正解だと思います。またドラマを見て心がキュンキュンしてくれて、「誰かと恋愛してみたい」と思ってくれたら、それはそれで僕のゴールなんです。
確かに俳優として、フォトグラファーとして出会う人は少し違いますよね。
古屋呂敏:そういう意味で言うと、ドラマ、映画で刺さる人もいれば、クリエイターだからこそ刺さる人もいて、そこは広げているという認識です。よく「どちらが好きですか?」と言われるんですけれど、どちらも大好きですし。わがままですが、どちらも今後もやっていきたいと思っています。
なるほど。人の心を揺らすという究極の目標に向かって、幅広く挑戦されているということなんですね。
古屋呂敏:揺らすというと、非常におこがましいんですけれど、誰かの人生の瞬間の中に、その1コマにいられることができるのは、とても幸せなお仕事だなと思うんです。しかも別に大した人間でもないし。
だから「役者としてのビジョンはどこですか?」とか「写真家としてどういうふうになっていきたいですか?」と聞かれてもビジョンがあまりない。目の前の人とか、1人1人に届けるように階段を上っているだけなんですよ。
自分のプライドとエゴを詰めた写真集
そして古屋さんのもう1つの顔であるフォトグラファーとして写真集『MY FOCAL LENGTH』を出版されます。『MY FOCAL LENGTH』は焦点距離という意味だそうですが、なぜこのタイトルで写真集を作りたいと思われたのでしょうか?

古屋呂敏:そもそもきっかけがウェブでの連載なんですけれど、それが『MY FOCAL LENGTH』というタイトルでして。これはよく例えとして言うんですけれど、カメラはどのレンズをつけるかによって見える距離が違う、フォーカスが当たるところが違うじゃないですか。
それは人間も同じだと思うんですよ。例えば人間って無意識のうちに自分が得たい情報を得ているし、自分が見たい世界を見る判断をしている、と思うんです。それは本当に人それぞれ違う。その違いを改めて認識したら、自分が見えてくるだろうなと。
つまり自分が切り取っている写真は、ある種、自分を投影しているものだと思うんです。だから「今の僕はこういうふうに世界を見ているし、こういうふうに眺めている」というものを残したかったんです。そしてこれを見てもらって、「ではあなたはどういうふうに、この世界を見ていますか?」と問いかけたいんです。
1枚の写真でも、見る人によってはまったく違うものに見えると思います。この写真集の中に入っている写真は、ブレていたり、揺らいでいる写真もたくさんあります。たとえば花のカラーの茎の部分を写した写真が入っているんですけれど、普通みんな花びらの部分を見るんですよ。
確かに見てしまいますね。
古屋呂敏:でもそこでない部分も花ですから。「茎を見てよ。綺麗な花を支えている。こういう存在の人って、たくさんいるよね」という思いがあるから、こうやって僕の視点を切り取っているということなんです。
ブレている写真については、「時の流れで僕たちは生きている」ということを表しています。たとえば今、こうして皆さんと一緒にいることは“揺らぎ”ではないかもしれませんが、3日経てばこの時間はやはり“揺らぎ”の中での流れなんですよ。
今、僕はまさに流れている中で生きていると思っているんです。ドラマもいろいろなものをやらせてもらって、どんどんチャンスが生まれていて。断面的に見ればそこにいるんですけど、全体を見ると流れているし、僕はまだまだ変化しているんです。
皆さんの中には今の僕が好きな方もいるかもしれないですけれど、僕は自分のことをどうしても捉えられないんですよ。だから今の自分はこうやってブレていると表現したくて、このような写真にしました。
なるほど。
古屋呂敏:写真に言葉はないですけれど、思いは込められるので。
こうやってインタビューで古屋さんの写真への思いを詳しく伺えるのがありがたいです。ライターとしては、どうしても言葉に頼りたくなってしまうので。
古屋呂敏:僕も分かります。それがあるからこそ、さらに写真の意味がたぶん伝わるので。
そうなんです。言葉で補足があると、もっと想像力が高まる感じがします。

古屋呂敏:だから今回も写真集の間にいろいろな文章を入れて問いかけています。音声ガイドもつけようかなと思っていまして。昔の人みたいに写真だけで問いかけるのはとてもかっこいいと思うんですけれど、今はそこまで読み取ることがなくなってしまった。
情報が多すぎて、補足がないと理解できないことが多いじゃないですか。別に僕らが馬鹿になっているわけではなく、補足しないと伝わりづらい時代になっているな、と思います。
そういう意味で、今回は写真だけではなくて、テキストを何ページも入れさせていただいています。
逆に表紙は他の情報がない、まさに写真の力のみで表現されていますよね。
古屋呂敏:正直に言うと、役者の写真集でこのパッケージは、本来ありえないと思います。ただ僕としてはフォトグラファーとしてのプライドとエゴがここには詰まっていて。自分の顔写真が表紙ではないのは、僕なりのある種のチャレンジというか、戦いなんですよ。
僕が伝えたいのは今、応援してくれている方が10年後この写真集を見て、それでもまだ手元に持っていたいかどうか。この表紙だったらリビングに置いてあってもインテリアとして存在できると思っていて。これから結婚する人もいらっしゃるだろうし、僕の顔が表紙の写真集なんて、旦那さんの手前、リビングに置けないじゃないですか(笑)。
でもこの表紙であれば、もしかして「インテリアとしてもかわいいでしょう?」と言って、コーヒーをポンと置いて写真を撮ってもらえるかもしれないし、そういうふうになったらうれしいです。この写真集には僕のエゴがすべて詰まっています。
「こんな生き方をしたい」と感じた花
私たちの媒体は『Lotus』という名前で蓮の花を意味しますが、古屋さんの写真集には植物がたくさん掲載されています。それに関連して、古屋さんのお気に入りの植物を教えていただけますか?

古屋呂敏:1つ心に残っている、「この花のように生きたい」と感じたのは、オヒアレフアという花です。ハワイ島の固有の花なんですけど、この子たちの何がすごいかというと、ハワイ島の火山は活火山なので、いまだに溶岩が流れるんです。
その溶岩が流れた後は溶岩台地で、真っ黒になってしまうんです。だから、本当に生のない、死んだ土地になってしまうんですけれど、最初に芽を出すのがオヒアレフアなんです。水もなければ養分もない、溶岩の中で初めて命を生み出すのがその植物なんですね。そして地球って面白いなと思うのが、火山のような真っ赤な花を咲かせるんです。
まさにマグマの色なんですね。写真でみると、彼岸花っぽい花です。
古屋呂敏:彼岸花に近いかもしれないです。オヒアレフアの写真はこの写真集にも入っていて、溶岩台地に生えている写真があるんですけど、本当に好きな花です。
ハワイの神話でペレという火山の神様がいて。ペレがオヒアという青年を好きになってしまい、オヒアの婚約者であったレフアと結婚できないようにオヒアを植物にしてしまった、と言われているんです(その後、反省したペレは二人が一緒にいられるように、レフアをオヒアの木に咲く花に変えた)。そういったストーリーもすごく面白くて。
あと今回、写真集に入れられなかったんですけれど、もう1つ好きな花はアンスリウムです。僕はハワイ島が実家で、祖父母のお墓に毎回花を添えるんですけれど、それが赤い綺麗なアンスリウムで、少しカラーっぽいです。
ハワイはお墓参りのバケツに何本も刺さっていて5ドルで売っているんですよ。みんなそれを買ってお供えするので、僕としては身近な花なんです。
最後にドラマと写真集を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
古屋呂敏:ドラマについては、こんな僕がのほほんとしている役をどうやってやるのか、ぜひ楽しみにしてください。写真集については、本当にたくさんの方が予約してくださって、ありがたいなと思います。こだわりをつめこめたので、ぜひいろいろな方に見ていただきたいです。

TEXT キャベトンコ
PHOTO Kei Sakuhara
ROBIN FURUYA 写真集「MY FOCAL LENGTH」発売中


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