【インタビュー】感覚ピエロ、2年ぶりフルアルバム「NULL」に込めた心情とは
感覚ピエロが4月25日に約2年ぶりのフルアルバム『NULL』(ヌル)をリリース。コロナ禍を経験し作られた楽曲たちには、メンバーそれぞれの想いが込められている。今回のインタビューは、アルバム作りの経緯から始めさせていただいた。取材には、横山 直弘(Vo&Gt)と秋月 琢登(Gt)が登場。真摯に答えるふたりのその姿は、音楽に対する愛、ファンへのメッセージそのもの。そして同席していないメンバーとの信頼関係も熱く語ってくれた。
コロナ禍、ギターの秋月がステージから去る
この2年間で起きた出来事をお話いただけますでしょうか。
横山 直弘:ざっくり2022年ですか。世の中的にはその「受け入れて前に進んで行こうかな」という雰囲気も見え出した時期ではあったんですけど、なんかこう、ライブ活動とか、まだ制約がいろいろあったというか。そういう状況の中で、ギターの秋月がステージでギターを弾くっていうことをお休みしました。
しばらく活動休止ということでしょうか。
横山 直弘:そうではなくて、たとえば外交回りだったり、曲や歌詞は引き続き作ったり。レコーディングもギター弾いたり、ステージに立つのはお休みするっていう形で。そういう新しいチームの座組として動いていたのが2年前です。そこから秋月が戻ってきて、感覚ピエロの正規の4人に戻りました。
ライブやりたいじゃないですか
秋月さんが戻ってきてからの他のメンバーのお話もお願いします。
横山 直弘:ここにいない他のメンバーもやっぱ、ライブはやりたいじゃないですか。でもできなくて。今までできていたことができなくなって。自分たちの意思とは全く無関係のところで、「動いてはいけません」っていうことに関してフラストレーションがたまりました。なんか、先行きの見えない不安だったりとかいうのもありますし。精神的なダメージはすごくたくさんありました。
コロナ禍を経験して、楽曲制作にも大きな変化はありましたでしょうか。
横山 直弘:あの時にこう感じた日々っていうものは、絶対心の中から消えなくて。一番はライブをやっていこうかっていうところの心情かなという。
アルバムを聴いてて、ライブで盛り上がりそうだなって思うフレーズとか随所にありますね。
秋月 琢登:そうですね。あの時の経験があるからこそ、「今、また新しくこう、進んでいこうか」ってなります。そのあたりとライブを意識して(楽曲を)作りました。
「適当な言葉」を並べた状態から担当が決まる
楽曲の作り方を教えてください。訴えたいところや伝えたいところもお聞かせいただきたいです。それでは、横山さんと秋月さんが担当された『壊れたハートに火をつけろ』からお願いします。
横山 直弘:曲的なところと歌詞的なところがあると思うんですけど、最初歌詞とかラフは、適当な言葉を並べた状態でした。その曲の雰囲気だったりや、「こういった曲なんだけど」ってことをメンバーに聴いてもらうとかしてましたね。この曲を聴いてもらった時に、一番秋月が「この曲めっちゃ好きやわ」って言ってくれて。その時(秋月)はいろいろ歌詞を書く作業だったり、結構パツパツだったりしてました。それでもその歌詞をなんか「手伝うで」って秋月が言ってくれて。そんな中で、「歌詞を書いてくれないか」ってお願いをしてできた共同作業の一曲になっていますね。
感覚ピエロのアルバムを聴くと、曲によって作詞、作曲が違いますよね。
横山 直弘:メンバーにちょっと話をして「じゃあ、今回こういうのやろうか」とか、「自分が担当しようか」とか、そういう感じでデビューから10年間作られています。今日いない2人(滝口 大樹、アキレス健太)も作詞をした楽曲がいくつかありますし。
ベーシックなラインを作る人間が僕と秋月で2人いて、その中でこう、ディスカッションだったりしています。その楽曲が持ってる色とかで、例えばドラムのアキレスとかの言葉を選んだほうが、ひょっとしたらすごくカラフルな曲になるんじゃないかとか考えますね。それでなんか共同作業で良い曲になってくるみたいな感じです。
作詞、作曲とかの担当はすでに決まってるバンドも多いなって私的には思います。
横山 直弘:そうですね。メンバーがそれぞれ好きな音楽とかありますけど、親父がビートルズを好きな影響で僕も聴いていて。ビートルズにはポールとジョンがいて、ジョージとポールもみんな曲も書くし。バンドの誰が勝ってるかっていうと、別にそうは聞こえないし、なんかその1個のバンドとしてそのカラーで成立しているっていうのがそのバンドのスタイルとしていく魅力なんじゃないかって。僕個人もそう思ってるところがあるから、誰かが書かなきゃっていうよりもその人それぞれのカラーを入れて、面白いものができたんじゃないかって思います。
シンプルに伝えたい歌詞
今回のアルバムに収録されている楽曲についてもお願いします。『名無大行進曲』からよろしいですか。
横山 直弘:作詞をした滝口が今日はいないんですけど、すごく正直に伝えたいことはもう歌詞に出てると思うんですけどね。再度僕らが説明するというよりも、お聴きくださり、その歌詞を読まれた中でそれぞれが感じることっていうのを大事にしたいなって思います。
これは僕の意見ですけど、シンプルにその滝口大樹(ベース)という人間の目から見えてるこういう世界だったり、世の中だったり、その彼自身が思ってるフラストレーションだったり。彼の目線から切り取った世界っていうものををお聴きくださった方が噛み砕いていただけたら嬉しいなと思います。
ライブで盛り上がる曲を
秋月さん、『咲き乱れ Boys&Girls』についてもお願いします。
秋月 琢登:メンバーに投げてみんなで作ってるところもあるんですけど、これはざっと大枠を作りましたね。(この曲を)作ってる時、忙し過ぎてあんまり覚えてないんですよ(笑)曲を作る時に、今回のアルバムはライブを想定してわりと作ったのでまだツアーも始まってないんでライブで演奏してないんですけど、ライブでちゃんと盛り上がるような、そういう曲になったらいいなって意識して。わりとノリの良い曲になったんじゃないかなとは思ってます。
そういう演出に繋がるところ、ライブでは特に大切ですよね。
秋月 琢登:洋楽とかも好きなので、なんかちょっと洋楽テイストというかそういうのも入れながらみたいなのを意識しましたね。例えば最近聴いてるアーティストとか。洋楽っていうと、パラモア(注1)っていうバンドさんとかを結構当時聴いてインスピレーションを得た部分はありますね。
僕は曲によるんですけど、大体歌詞が後なので、曲先行で書いてしまいますね。リフだったり、フレーズだったり、重ねて重ねてみたいのが多いです。歌詞は最後ですね。
(注1)パラモア=アメリカ合衆国テネシー州出身のロックバンド
それぞれのちょっとずつのズレが面白い
『ナンセンス』についてもお願いいたします。
横山 直弘:ポリリズムで鍵盤を弾いてらっしゃる方の動画をたまたま秋月が目にして。このアプローチっていうか発想が「すごいカッコいい」からこの発想を自分たちの中に吸収して、一曲作れたらってことで連絡くれて。そのアイデアから出発して作っていった曲ですね。
秋月 琢登:うん、そうです。
横山さん、どうして作詞、作曲、編曲と全部ひとりでやることになったんですか?
横山 直弘:その楽曲ごとにそのイニシアチブを持ってる人間が最後までハンドリングをするっていうことが僕らの場合多いので、自然とですね。曲作って、歌詞作って、並行して作ったりとか。ひとりで作るんですけど、最終的には全員が弾いた楽器が入ってきますし、メンバーがそれぞれ持ってきたフレーズはもちろんデモとは違うフレーズだし沿ってるものもあるけど、違うフレーズもある。そこでちょっとずつの「ズレ」みたいなものが面白い。ひとりで作ってるけど、「これがもっと多彩な色になるんだろうな」っていうのを思いながら曲を作ってるので。だからメンバーが楽器を入れてきた時に、また自分の枠を超えた色になる。ひとりで作ってるんですけど、ひとりで作ってるっていう感覚はあまりないです。
戦闘シーンだから速いテンポ、ではなく
楽曲それぞれの完成度が高いことに納得しました。『Break Together』を作詞/作曲なさった秋月さんはいかがでしょうか。
秋月 琢登:『ブラッククローバー』の映画があったんですけど、それの戦闘シーンで「感覚ピエロにぜひお願いしたい」ってお話があって出来た書き下ろしの曲になります。
それこそ戦闘なので、格好いい感じにしたいなって思ってちょっとソリッドな感じにしたテイストになっています。サビはやっぱりキャッチーに広げたかったので、それ以外はわりとやりたいことやったような。
この曲のテンポ周りとかはいかがですか。
秋月 琢登:戦闘シーンだから速ければいいとかそういうことだけではないと思うんですよ。逆にちょっとゆったりしたいとか。この曲は疾走感を出したかったので、疾走感ゆえにあんまりテンポ遅すぎるとね、自分の思っている感じじゃなくなるので、自分も乗りやすいってのはあった感じですね。フレーズとかも、タッピングがあったりとか、ドラムのチョーキングとかも一気になんか刺さるようなリフとかを意識しましたね。
映画の絵コンテも見せてもらいつつ曲を作っていたので、シーンがこう思い浮かぶような感じをイメージしてます。あとは完成したものに僕らが曲を書くと、全部が遅れちゃうので、あまりそこまで出来上がったものを見られるってほぼないですけど、脚本だったり、内容だけいただいてそれに基づいて曲を作ってるという形です。
光を当ててあげたいなって
横山さん、作詞、作曲というと『LOVELESS』もそうですね。こちらの楽曲の歌詞は新しい世界へチャレンジしたような、そういう感じがしました。いかがでしょうか。
横山 直弘:これはもともと、楽曲提供させていただいたアーティストさんに「もう1曲書いて欲しいんです」っていう風にご連絡いただいて。その時にお渡ししてた1曲なんですけど。
何年か眠っていた曲なんですね。
横山 直弘:聴き直している時にこの曲を使いたいなって。何年か前の曲なんですけど、何年か経ってみて今自分が聴き直しても僕はやっぱ好きだし。だから光を当ててあげたいなって思って。「ものすごく申し訳ないんですけど、この楽曲をお戻ししていただけませんか」ってお願い差し上げて楽曲を戻していただいたんです。
曲は、そのまま使ったんですか?
横山 直弘:もう一緒です。元々お渡しした曲調とは全く何も変わってなく、キーをちょっと変えたくらいです全体の楽曲の持ってる色をそのまんまブラッシュアップしたっていう感じです。
Cメロが一番気に入ってたり
人気映画のタイアップ曲『ノンフィクションの僕らよ』についてもお聞かせいただけますか?
秋月 琢登:これは縁ですが、ドラマ「ゆとりですがなにかで」で一度曲を書かせてもらっていまして。「また1曲書いていただきたい」とお話があって書かせてもらった曲です。あの作品自体がそんなに僕らの世界線とあんまり変わらないものを描いてる作品で、変に意識することなく、コロナがあったりだとかそういうのを経て今の僕らも素直にちょっと回帰しました。
直球に変えたという良い曲ですね。
秋月 琢登:あとはそうですね、出だしからインパクトが欲しかったので、歌い出しがもうサビだとか、Cメロが一番気に入ってたりするので、サビよりもCメロが実はメインくらいのテンションで実は曲を書いていたりだとか。「これ、ライブハウスとかでみんなで歌ったらいいね」って話も出ていました。
なんだか一体感が出ますよね。
秋月 琢登:そうですね。なんか気持ちいいんですよね。みんなでもっと歌えたらいいな。
乗り越えると自分たちの新しい扉が開く
アルバムの最後に入ってる曲『We Still』についてもお聞かせください。
横山 直弘:「Tales of ARISE-Beyond the Dawn」っていうゲームの追加コンテンツの話なんですけど、そちらのエンディングです。以前ARISEのオープニングで『HIBANA』っていう楽曲を使っていただいたんですけど、「(また)お願いしたいです」っていうありがたいオファーをいただきました。僕らの曲で一旦ご提示いただいた曲もあったんですけど、せっかくなんで、「その一曲新しく書きたいです」というような形で僕らの方からお伝えして作ったのがこの『We Still』っていう曲です。
ものすごく世界観が出てて、感動しました。特にサビは涙が…。
横山 直弘:曲の構造的には『HIBANA』と合わせました。想いを込めて作るそういうギミックは用意してるんですけど、聴き手の方に伝わるかどうかってところは一旦置いてみて。
作ってる本人としては『HIBANA』があり、愛してくださってるテイルズファンの皆様がたくさんいるので、その最後で流れるものとしてを考えました。この曲を目にする耳にする人たちの心の動きもやっぱり違うわけで、そういう中でいうと演出しているものは違うんですけど、ただ一貫性っていう意味では、そのキーを一緒にして、乖離しているものではなくて一緒のものというか。
起点と終点で、感覚ピエロに任せていただいたテイルズの中で「一本の感覚ピエロの音楽だよ」ってことを表現したいなっていうのがありました。ゲームの制作の皆様ともすごく綿密にディスカッションさせていただけて。作品を良くするために僕らの音楽を良くするために協力作業させていただきました。これこそ、いろんなチームワークで生まれていく曲だなというふうな認識しています。
作曲家によっては、直しはしんどいともお聞きします。
横山 直弘:もちろんしんどいですね。自分の中の引き出しにはないものを提案されたということでもあるから、その引き出しを開けた後に何かを入れるっていう作業をすると自分たちの中にまた新しい、なんか扉が開くんじゃないかなっていう考えです。そういう思いでやらせていただいています。
テイルズといえばテイルズフェスもありますね。
横山 直弘:前回『ARISE』がリリースされた時に、僕ら出させていただきまして。今回も嬉しいことにお声がけいただきました。テイルズファンの皆様に、生でオープニング曲とエンディング曲をお届けできるよう仕上げていきたいなと思っております。
テイルズフェスに合わせて何か準備していることはありますか?
横山 直弘:あんまり言えないんですが、テイルズ作品をやってる方には喜んでいただけるよう準備をしているので。僕らは2日目に出させていただきます。
Lotusは蓮を意味している媒体なんですがそこと連想して、今回のアルバムを花だったり、植物だったりに例えるとしたら何になりますでしょうか。イメージでも大丈夫です。
横山 直弘:明確なお答えにはならないかも知れないですけど、桜かな。なぜかというと、花はずっと咲いているから美しいわけじゃなくて、いつか花は枯れる生き物だし、何もない状態からまた咲いてくるという。それを、その周期を繰り返すってことにみんな惹かれてその美しさに引き寄せられていく。桜とか花見に集まるだろうし、その生物感、生き物感、絶えず変化するっていうことに対しての美しさに引き寄せられる気がしていて。
このアルバムっていうのも、(デビューから)10年の中でいろんなことを経験しながらそれが今咲くところなのかっていうところもありますけど、その変化の中で、一個僕はこう思うとか、みんなにこう見えるような形にしていきたい。そういういろんな10年の中での変化があって、咲いては散りを繰り返してきて今この瞬間っていう風に思っています。
TEXT いしかわ まさゆき(きっ舎)
PHOTO Kei Sakuhara
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