【インタビュー】待望の新作舞台「See」は「s**t kingzがそのままいる舞台」
唯一無二のパフォーマンス力とクリエイティビティで、世界各国からのオファーが絶えない4人組ダンスパフォーマンスグループs**t kingz。国内外の有名アーティストの振付、LIVE演出、ダンスライブツアー、TV番組の構成・振付、フェス主催など多岐にわたるジャンルの仕事に携わる彼らだが、2013年から自身で作・演出・出演を務める舞台を行っている。その新作公演『See』が2025年2月1日から9日まで新国立劇場 中劇場で開催される。洗練された内容で毎回大きな注目を集めている舞台は今回が6作目で、「見えてないだけ」「見えなきゃよかった」「見せたくないもの」「見えないものさし」というテーマを取り上げているという。一体どんな舞台が展開されるのか。気になる内容について、メンバーのshoji、kazuki、NOPPO、Oguri の4⼈に語ってもらった。
単独舞台は多様な表現を発掘する場
各方面で大活躍のs**t kingzの皆さんですが、今回、新作舞台『See』のようにご自分たちの舞台を続けている背景には、どういった思いがあるのでしょうか?
shoji:今までの舞台を思い起こすと、セリフがなく、ダンスでストーリーを伝えていったり、自分たちなりにメッセージを発信してきました。ワンシーン、ワンシーンをどう表現するか、それを1時間半ないし2時間飽きさせずに進行させるか。
僕たちは毎回いろいろなところから刺激や影響を受けながら作品を作っているんですけれど、舞台は多様な表現を発掘する場になっているんだろうと感じます。そこで見つけた方法を演出や振付、自分たちのライブなどに各自が還元していく、といったことなのかな、と思っています。
今回の公演は『See』というタイトルですが、このテーマになったのはなぜでしょうか?
kazuki:もともと話し合っていた当初は、今とまったく違う内容だったんです。最初は人が見ているものなどで、例えば見た目だけで判断してしまったり、実はこうだった、という事情を知っていたら違う見え方をしていたりとか、そういうことってあるよね、といったような話をざっくばらんにしていて。人によって見え方が違うとか、実はこれが見えていたら感じ方が違うとか、そういったものを表現するのは、すごく面白いんじゃないかといったところからいろいろ派生していって、先に『See』というタイトルが決まったんですよ。
それでいざ肉付けしようと思って話し合っていくうちに、僕らが今やりたい舞台と方向性が違うかもしれない、となって。『See』というタイトルだけが残り、そこからかけ離れるわけではないんですけれど、少し表現方法を変えて、現在は作っていっています。最終的には、s**t kingzがそのままステージ上にいるような作品になりました。
s**t kingzがそのままいるというのは、どういうことですか?
kazuki:例えば前回の舞台(『HELLO ROMMIES!!!』2022年)だったら、僕らはA子という女の子の人形の心の中にあるゴミの役が軸だったんですけれど、それはs**t kingzではなくてゴミなんです。ですが今回はs**t kingzがステージ上にいて、僕らが普段感じていること、行っていること、そういったものをエンタメ風にアレンジしつつ、リアルなs**t kingzがステージ上でそのまま見られるような形になっています。その中で舞台ならではの新しいパフォーマンスをわんさかやっていく、と感じで。僕たちもこれまであまり取り組んだことがないものに挑戦します。
s**t kingzがいるというのが大きなテーマということですが、さらにくわしくいうと、どういうことでしょうか?
Oguri:普段は僕たちが作り上げたものや僕たちが踊るステージが、人々の目に触れる瞬間が最も輝かしいものではないかと思います。でも今回はそうではなくて。それを生み出す過程だったり、すごく煮詰まる瞬間だったりがあって。皆さんも仕事上で壁にぶつかったり、うまくいくことばかりではないですよね。
s**t kingzとしても同様に、もがきながらいろいろな作品を作っている、ということを見せられたらいいな、というか。本当にただの人間として、日々を生きている。でもその中でもこうやって仲間がいるから頑張れたり、楽しいと思える瞬間があったり、というところを切り取れたらいいなと思っています。ダンサーや振付師とかではなく、ただの人間であるs**t kingzみたいな。
確かにダンスグループの舞台というと、パフォーマンスの表面を見がちですが、『See』はその視点を1つ超えてきそうですね。
Oguri:普段みんなが見ているs**t kingzと、普段みんなが見てないs**t kingzが、どれが本当なのか、とか。別に本当とか嘘とかはないんですけれど(笑)。でもそれはここだけではなくて、普段の生活の中でも、自分は果たしてどれくらいのものが見えていて、見えていないものにどれだけの真実が隠されているんだろう、とか。そういう日々の想像力が、より働くようなきっかけになれたらいいな、と思っています。
過去の舞台の良さも取り入れたい
ちなみに舞台の作り方はさまざまだと思うんですけれど、4人での単独の舞台は、どんなふうに話し合って作っているのか、教えていただけますか?
NOPPO:前回もそうだったんですけれど、shojiは先頭を切って「まずこういう感じはどうかな?」と提案ベースのものからいろいろ僕らに提示してくれて。それを僕らが見て感じて、「こうした方がいいよね」と膨らませます。その中でOguriは音楽、僕は衣装、kazukiは演出メインでいろいろな機構とかセットに対して意見を出していって。shojiくんはトータルで見るみたいな感じで、最後にアイデアをまとめてくれます。でもそういう役回りに、いつからなっていったんだろう……?
shoji:音を作り始めたのが『Wonderful Clunker-素晴らしきポンコツ-』だから。
NOPPO:そうですね。そのぐらいから担当制になっていって。基本、舞台はshojiくんがメインで考えていって、それで4人で膨らませていった感じが多いですね。
私は幸運なことに皆さんの初の単独公演『THIS SHOW IS s**t』(2013年)を拝見したのですが、その時と今はどう進化していると思われますか?
shoji:もちろん変化や進化はしていると思うんですけれど、今になって「初期の時のシンプルさはすごくいいな」と改めて思ったりします。初めてやった時は、「とにかく舞台をやってみよう」といった感じで取り組んで、オムニバスだったんですよ。
1度そのチャレンジを経て、次はストーリーを伝えてみようとなって、『WEEKDAY PLAYDAY』(2014年/ 街はずれの小さな工場でせわしなく作業する4人組を題材にした舞台)をやりました。さらにもっと複雑なストーリーを伝えられないかな、ということで、『Wonderful Clunker-素晴らしきポンコツ-』(2016年/マンガ家・ヤマザキマリ氏の完全オリジナルの脚本の舞台でトイレをテーマにした)に行って、そこから1つのシチュエーションに集中しようとなって『The Library』(2018年/図書館を舞台に巻き起こる男の友情ストーリー)にたどりつくなど、毎回いろいろテーマがあります。
前回は自分たちが主役ではない舞台をやろうということで、人形を主役にしたんです。そういったチャレンジが毎回ありつつ、チャレンジにばかり目を向けすぎると、今度は逆に自分たちが1番核として大事にしたいものを忘れてないかな?とふと不安になったりすることもあったりするんです。
それで『THIS SHOW IS s**t』の時とかは、すごくシンプルにダンスが伝わっていたよな、と思い出して。「『WEEKDAY PLAYDAY』のシンプルさって良かったよね」とか、過去の舞台のこととも思い出して話し合いながら、「でも今しかできないチャレンジって、どういうことだろう?」と考えました。その結果、今回『See』は場所を1つの劇場に限定して、そこのスペックを最大限フル活用するような舞台を作ってみようよ、となったんです。
これまでの“ストーリーをどれだけ複雑に伝えられるか”という挑戦とは異なり、もっとシンプルに、昔やっていたパフォーマンスの面白さにフォーカスして。もちろんストーリーもあるんですけれど、もっと1つ1つのパフォーマンスへのこだわりといったところで見せていけたらどうだろう?と考えています。昔の舞台を観た時にいいなと思うところも、今回の舞台では大事に取り入れていきたいです。
今回は新国立劇場だけで上演されるということですが、新国立劇場自体は前回のツアーで使われました。会場のどういうところ活かしたいと思われますか?
NOPPO:前回は各地いろいろなところでやるという制限があったので、その中でのサイズ感だったんですけれど、今回は新国立劇場の魅力でもある何十メートルの奥行きだったり、ステージが上下して高さの差を使えたりするので、いろいろ見ている人の視点を変えやすかったりするんです。それプラスみんなで話して、「この道具や機構を使いたい」とか「この照明はどう?」とか、いろいろなアイデアが出ているので。新国立劇場らしさとシッキンから出たものが折り混ざった演出ができたらいいな、と思っています。
皆さんの舞台のアイデアは、普段どういうところから浮かぶのでしょうか?
kazuki:本当に思いつきの連続な気がします。みんなで集まって話してみて、誰かが言った一言がいいと思ったら膨らませていって。そういった意味で、まさに4人で作っていると感じることが多いですね。
僕みたいに笑いが好きな人もいれば、すごく深いメッセージを大事にしたい人もいる。それぞれ特徴があると思うんですよ。だから「このネタをどちらの方向に持っていこうか?」となった時は、話し合いで作っていきます。笑いの観点で「こうしたら絶対に爆笑が起きて、すごく楽しい」と思う時もあるし、「ここに笑いはいらないんだな」という時に、他のメンバーと「ここをこういう風にしたら、もっと深く刺さる」とか「感動的になるんじゃないか」とか、その場のテンションやその時の感覚でアイデアを出しています。それでリハーサルをやっていくうちに、結構変わったりもするんです。でも変わらなかったものは、きっと自分たちの中では正しくて、最後まで残っているものだと思います。
ちなみにkazukiさんがお笑いに関する担当だとすると、それぞれ何担当だと思われますか?
NOPPO:僕はエンタメとしてYouTubeで海外のピエロやサーカスを見るのが好きなので、そっち系をポロっと出すときはあるんです。あれはなんて言うんだろう?
shoji:大道芸?
NOPPO:そうだ。大道芸担当ですね(笑)。
shoji:僕はまとめ担当かな。どちらかというと生み出すというより、まとめるという感じのキャラだと思うので。
Oguri:俺は闇ですね。
闇ですか?
shoji:光と闇な感じなんですよ、
Oguri:闇に魅力を感じるという。それできっとs**t kingzの中にもある闇をちゃんと出していきたい、みたいなところを、かたくなに続けています。
面白いことを全力で楽しみたい
私たちの媒体『Lotus』に関連しての質問をさせてください。Lotusは蓮を意味しますが、新作舞台を植物や花に例えると、何だと思いますか?
shoji:それこそ蓮っぽい気がしますね。 今回の舞台が、目に見えているものと、その下にあるもの、みたいなことがテーマなので。自分たちの作品が花だとしたら、水の中にものすごく長い茎と根があるわけじゃないですか。それとつながる気がします。
kazuki:視点的に『See』は泥の中に可憐な花を咲かせるというより、可憐な花の中にある泥を表現する感じですね。キラキラした舞台の下って、反対の部分の方が多い気がします。それをコメディーで、というのが『See』だな、と思います。
舞台の様子を想像するだけでもワクワクしますし、ちょっと胸がいっぱいです。
kazuki:まだ見てないうちから、満足しないでください(笑)。
とても楽しみです。そして改めて伺いたいのですが、これだけキャリアを重ねてらっしゃっている皆さんにとって、今の夢はなんでしょうか?
Oguri:何かに追われたり、やるべきことが増えすぎて、それだけでいっぱいになってしまうのが、たぶん1番s**t kingzらしくないことなのかなと思います。自分たちから生まれる衝動とか、「こういうことがしたい」と思える余白がある状態をキープし続けたいです。常にワクワクするチャレンジができるスペースを残しながら、いろいろなことを乗り越えていきたいというのが夢というか、希望の状態ですね。
ある意味ロールモデルはいなくて、s**t kingzが進む道は私たちが初めて見る道になっていると思うんですけど、その辺りに対する不安感はありませんか?
shoji:不安はそんなになくて、逆にワクワクしちゃうかなと思うんですよね。シッキンってロールモデルみたいな存在であれたらうれしいなとは思いつつ、それになろうみたいな思いで活動しているつもりはないんです。ただ自分たちが活動していく中で、たまたまYouTubeが主流になっていったり、動画でダンスを見ることが当たり前になってダンスが盛り上がって。そのほか新しい波だったりテクノロジーが出てきたり、ダンサーが舞台をやれるようになったり。また自分たちで音楽を出そうという話になって、それを作っていけたりとか。たまたま新しいチャレンジをやり続けて、いろいろなことができているんですよね。
今、Oguriが言った余白みたいなところもそうですけれど、本当にこれから先、どんな新しいテクノロジーが生まれて、それと一緒に何かできるんだろうと考える面白さがあると思うんです。たぶん5年もすれば主流となるSNSも変わるし、おそらくみんなが面白いと思うエンタメも変わってくるでしょう。その時に自分たちが面白いと思うものをきっとやれているだろうな、と思うので。常にその時々の面白い出来事を全力で楽しむグループであり続けたいと思います。
ファンの方に、この舞台を通してどんなこと伝えたいと思われますか?
NOPPO:最近はs**t kingzとしてもソロとしても、いろいろなメディアに出させてもらって、それぞれ1人の人間として見てもらえる機会も増えています。だから『See』をやった時に、僕らの人としての面白さを知っている人が見る面白さもあると思うし。Oguriがいるので、闇の部分もありますし。闇の部分って、逆に共感するパターンもあるじゃないですか。「何か勇気が出た」とか「私もそうなんだよね」とか。
だから断定しない、好きなところ見てください、と言えるようになりたいですね。人間性が好きだったらそういうところも『See』の舞台でありますし。ライブが好きだったら、僕たちは楽曲もオリジナルで作っているので、そういう音楽の楽しみ方もありますし。パフォーマンスが好きだったらなど、本当にいろいろな見方ができると思うので、まずはフラットな気持ちで観に来てほしいです。
音楽も全部オリジナルというのが楽しみです。
NOPPO:舞台ならではの音楽になりつつあります。ライブとはまた違った、ちょっと奇怪だったりして面白い音楽がたくさん出てくると思うので、楽しみにしていてください。
shoji:今回は「ここのストーリーを楽しんでください」といった舞台というより、とにかくs**t kingzの頭の中だったり、s**t kingzのアイデア、パフォーマンスを観に来てほしいというイメージです。「楽しいダンスの舞台を観に行くぞ」みたいな気持ちで来てもらえたらいいな、と思っています。
NOPPO:逆に「この舞台は、どう感じましたか?」といったことを知りたいので、ぜひ皆さんの感想を聞きたいですね。
TEXT キャベトンコ
PHOTO Kei Sakuhara
舞台情報
s**t kingz 舞台公演「See」
作・演出・出演:s**t kingz
【日程】 2025年2月1日(土)〜2月9日(日)
【会場】 新国立劇場 中劇場(東京)
■チケット情報
一般発売2025年12月14日(土)10:00〜
▷チケットぴあ
▷ローソンチケット
▷イープラス
■チケット料金
全席指定:9,900円(税込)
※1申込につき各公演4枚まで
※3歳以下入場不可/4歳以上チケット必要
■お問い合わせ
キョードー横浜
Tel:045-671-9911(土・日・祝を除く 月~金11:00~15:00)
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