【インタビュー】中川翔子がニューシングル「ACROSS THE WORLD」をリリース。しょこたん節炸裂のインタビューから作品の魅力を紐解く。
中川翔子が11月20日にニューシングル『ACROSS THE WORLD』をリリースした。本作は、収録される3曲全てがタイアップ曲という、なんとも豪華な仕上がり。そして全て中川翔子の思い出や記憶に刻まれる作品の主題歌となっている。今回はそんな彼女にインタビューを敢行し、たっぷりと話を聞く。彼女の素直な言葉から垣間見える、作品へのリスペクトと歌への強い思い。歌手・中川翔子の素顔に迫る。
喜びを噛み締めながら歌いたい
本作『ACROSS THE WORLD』はフィジカル作品としては、前作『65535』から約1年ぶりの作品となります。収録される3曲全てタイアップという素晴らしい作品になっていますが、1曲ずつ楽曲についてお聞きしていこうと思います。まずは、1曲目の『ACROSS THE WORLD』。こちらは、長編VR映画『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』主題歌ですね。
中川翔子(以下、中川):まずは、ガンダムの主題歌を歌える人生になったことが衝撃的すぎて。本当に嬉しいです。今日、初めて出来上がったCDを見たんですけど、正直震えています(笑)。30代に突入してからの方が「生きていてよかったな」と思うことが多いんですけど、このタイミングでその人生がガンダムシンガーになった人生に塗り変わったと思うと、めちゃくちゃ嬉しいですし、走馬灯が見えかかっているような感覚さえ覚えます!
元々、ガンダム作品はお好きだったんですか?
中川:ガンダム作品は、ファーストガンダムと言われる『機動戦士ガンダム』だったりちょこちょこと観てはいたんですけど、忙しい日々を送る中でどっぷりとハマるということは出来なくて悔しかったんです……。ただ、あるとき1週間ほど入院することがあって、このお仕事を始めてから初めての何もない時間、そこで腰を据えてガンダムを観ようと決意しました。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』から観てみると、どハマりしてしまって!
ファーストガンダムの名言にも触れ、人生を生きる中で巡り合える奇跡を感じたり、名もなき勇敢な人たちが歴史の中で人知れず散っているということもあるのか思ったり……。ガンダムを観ることでいろんなことを考えさせられて、そこからガンプラを作ることにハマったり。このタイミングでガンダムにハマれるって幸せなことだなと思ったし、幅広い世代の方とお話も出来る。そんなことを思っているときに主題歌のお話が来て!
ガンダムからさまざまな学びもあったんですね。
中川:本当に生きていることって当たり前じゃないなと思うし、それぞれの考え方があるからこそ人や物と出会う、そこで人生が交差して運命が変わっていく。その選択をすること自体、生きている中での奇跡だと思うんです。だからこそ、『ACROSS THE WORLD』は私が生きている限りに大切に歌い続けていきたいと思っています。
それほどまでに大事な曲に仕上がっている。実際に歌ってみていかがですか?
中川:新曲のはずなのに昔から歌ってきているような感覚があります。しっくり来ているんですよね。楽曲からは、80年代〜90年代初期のような時代感も感じることが出来ますし、そこがすごく大好き。どこを切り取ってもガンダムだと思うし、ファーストの頃のガンダムだと思うんです。そこが堪らない! 嬉しいという言葉では喜びを表しきれないです(笑)。
今回、久しぶりにリリースイベントで北海道から沖縄まで各地を回らせていただいているんですけど、もちろんガンダム好きの方がたくさんいて。それだけでなくガンダムを知らないちびっ子までたくさん来てくれる。その光景が嬉しすぎて「ガンダムやまびこをやってもいいですか?」と名言をやまびこしてもらうんですけど、例えば「ジークジオン!」とか「二度もぶった。親父にもぶたれたことないのに!」とか「ウラガン!あの壺をキシリア様に届けてくれよ。あれは・・・いいものだ!!」とか(笑)。皆さんしどろもどろになりながらも返してくれて、やっぱりガンダムってたのしい!となっています(笑)。
その空間で歌えるって最高ですね!
中川:先日、SNSで「好きなモビルスーツはなんですか?」と呟いたところ、トレンドに入って、1万1千リプライも回答が届いて大盛り上がりしたんですけど、やはり皆さん人生の中で絶対ガンダムとアクロスする瞬間があるんだろうなと思いつつ、この歌詞の中には映画のラストとリンクする部分があって。もちろんどこを切り取ってもガンダムではあるんですが、物語とリンクしていると同時に人生への金言にもなるような気がするんです。今後もきっとたくさんの選択肢があって、人と出会い、嬉しいことだけではなく、辛いことも大変なこともあること教えてくれているというか。歌詞の中ですごく印象的なのが、〈塗り潰したりしないで 全てを引き受けたら 答えなんてないから〉というフレーズ。受け止めたらではなく引き受けたらと言うことに大人の余裕を感じたり、このフレーズは歌っていくうちにもっと意味を増していく気がしているんです。
なるほど。
中川:イベントには、毎回1クラス分くらいのちびっ子が来てくれて、ステージに上がってもらったりもしているんですけど、幼少期のそういった鮮烈な思い出ってずっと残る。一時忘れても思い出せると思うんです。それが嬉しいし、そういう体験もこの歌を通して提供したい。歌を歌えることは当たり前ではないし、こうやって長く歌を歌えることは会いに来てくれるみなさんのおかげなので。
大好きな作品の歌で、大好きな人たちに会うことができる。
中川:本当になんで歌えたんでしょう……? でも、言霊って本当にあると思っていて。私はこれまでの人生でたくさん会いたい人に会ってきているんですけど、それにしても今回のガンダムの主題歌は早すぎるというか(笑)。本当に不思議ですね。このタイミングで巡り合える何かがあったのかなと思うと、責任を持って、この楽曲を歌える喜びを噛み締めながら健康に生きて歌いたいと思います。
大好きだったゲームの主題歌
2曲目に収録される『PEAKY』は『eゴッドイーター TRIPLE BURST』主題歌になっていますね。
中川:『ゴッドイーター』もまた、PSPやPlayStation Vitaの頃にめちゃくちゃハマっていたゲームで。チームプレイが出来たので、友人にプレゼントして無理やりやってもらうくらいハマっていた思い出があります。ハマっていた当時、ブログにも書いていたと思うんですけど、これも言霊が叶った形ですね。
やはり言霊の力はすごいですね。
中川:本当に! 今回嬉しかったのは、「中川翔子さんでお願いします」という指名だったこと。そして、この曲はパチンコで大当たりの匂いがしたときにも流れてくるので“確定激音ソング”と言っています(笑)。 私も聴いた方の寿命が絶対に伸びる呪いがかかるようにと願いながら歌っているんですよ! ラッキーソングとして皆さんに届けばいいなと。
実際に歌ってみて、いかがでしたか?
中川:すごくテンポが早い! 最後の<過去・未来・今・上・下・右・左>のところが歌えるようになるまでめちゃくちゃ噛んじゃいました。作詞・作曲・編曲を担当されたSohbanaさんとは前作でもご一緒したんですけど、めちゃくちゃお若い方でトリッキーな方なんです。それゆえに覚悟していた部分があったんですけど、やはり最初は難しかった。でも、歌えるようになると口が気持ちいい! 歌詞に関しても<斯様なバカも休み休み言え>とか、<神ならば>とか、私が言ってみたい言葉が詰まっているというか、心の中のティーンエイジャーが叫んでいる感じしていて非常に気持ちいいです!
自分が好きでやっていたものに携わるって素敵なことですね。
中川:その瞬間の自分はなんの邪念もなく、単純に好きなものに出会えて楽しいと思っているだけだったから、その後にこういう未来が待っているなんて思ってもない。当時の自分に話をかけて「あのさ、未来でこんな歌を歌うんだよ」と言っても信じないでしょうね(笑)。
堀井雄二の歌詞にゾクっ!
3曲目に収録される『流氷に消ゆキラリ』はNintendo SwitchTM/Steam®向けゲーム『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』主題歌。そして中川さんは中山めぐみ役で声優としても参加されています。
中川:これまたびっくりしています! 実は、ファミコン版のソフトが自宅にあって。リメイクされるということで、一ゲームファンとして嬉しいニュースだなと思っていたところ、自分が主題歌を歌うことになって……。しかも、堀井雄二さんが人生初作詞というすごく尊いタイミングでそれを歌える自分は、なんて幸せで光栄なことなんだろうと。
そして、中山めぐみ役を出来ることもそうですけど、本来はべーしっ君という隠れキャラの声をやることが決まっていたんです。それを堀井さんが「めぐみもやってもらいましょう」と言ってくださった。堀井さんに初めて出会ったのは20代の頃、そこから本作でめぐみ役の声優を担当するそれが感慨深い。めぐみさんはこのゲームにおいてすごく重要なキャラで、ファミコン版でも裏技を使うとバスタオルをとるという衝撃のシーンがあるんですが、今回もそのシーンは健在! そんな重要キャラのお色気台詞を言える時が来るなんて、気が熟したんだなと思いました(笑)。
堀井さんの初作詞、言葉に触れたときはいかがでしたか?
中川:ゾクっとしました! 壮大な世界観と女神感、そして美しく儚いだけではなくて、残酷さというか、神というものがもしいるとしたら人間に本当に試練を与えるし、手を差し伸べるようで残酷だったりする。そういう考え方は、ドラクエの世界で学んだことだと思いますし、<まどろみの夢 遠く大地に 歌う>という歌詞は、『オホーツクに消ゆ』の世界でありながらどこかドラクエ味をすごく感じてしまう。堀井さんの語彙で育ってきた人生の中で彼の書いた歌詞で歌を歌える。私は、歌って魔法にも似ているなと思っていて。自分のレベルが上がると威力が増していく。聴いてくれたみなさんの思い出も重なって育っていくものだと思うんです。そして、先日『ファミリーヒストリー』(NHK総合)に出演した際、北海道にご先祖様がいることが分かって! このタイミングで北海道を舞台にした曲が歌えることも運命だったんだなと思います。
歌は自分の一番やりたい、一番難しい、一番嬉しい奇跡
3曲ともに全て導かれているような気がしますね。
中川:導かれて、導かれて、今なんだという3曲がバシッと揃った感覚はあります。それが今回1枚にパッケージされたということに意味を感じますよね。生きることやお仕事への考え方のターニングポイントが今なんだと思います。
先ほど、歌は魔法に似ているとおっしゃいましたけど、中川さんにとって歌とは?
中川:歌は人生で一番尊いものだと思います。歌うことで皆さんに会えるし、私の生きた証。その瞬間、その瞬間で聴いていただけるからこそ私は歌が歌えるんですよね。ありがたいですし、感謝と向き合えるのは歌があるからなのかなと。長くお仕事を続けてこられたのは、歌があったからだと思います。いろんなお仕事が歌を歌うために繋がっていて、歌がなかったから他のことも続いてないだろうし、歌だけだとずっとやれてない。
先ほど、リースイベントでは、毎回新しい子供たちが1クラス分くらい来てくれると話しましたけど、前回の子供たちが大きくなっているわけで、今回はまた新しいちびっ子たちがくる。ファンの方同士で結婚して生まれた子供を連れてきたりもするし、ポケモンの番組を観て育った子が大学生や大人になって「やっと会えました!」、「自分のお金でCDが買えました」と言ってくれる。CD世代じゃないのに働いてCDを買って会いにきてくれたんだなと思うと、エア子育てをしている気持ちにもなれて(笑)。当時番組をやっている時は子供たちの思い出になれたらいいなと思いつつ、本当に子供たちに届いているのか分からないと思っていたんですけど、ちゃんと届いていたことを今確認できている。すごく嬉しいです。
改めて、歌手・中川翔子とはどういうポジションですか?
中川:最初にデビューしたときはそれこそトランスの楽曲でデビューをして、もちろんずっとアニメソングを歌いたい気持ちはありましたけど、当時はデビュー=CDデビューではなかった。遠回りをして夢を叶えた感じではありましたけど、そこから次に続くかは誰も想像していなかったと思うんです。応援してくれる皆さんが聴いてくれてここまで続けて来ることが出来たと思います。先日、父の没後30年のタイミングでベストアルバムがリリースされたんですが、きっと父が一番やりたかったことも歌だったし、当時ネットはないからやりたいことをやりたいと言っても届かない、見つけてもらえない、そういうことがあったかもしれないけど、このタイミングで父はベストアルバムを出せた。そう考えると感慨深いし、不思議だなと思います。
私は、仕事にしたいからではなく、素直に好きとか楽しい、可愛い、美味しいを表現するようにしているんですけど、歌手として歌うことは、その感情が積もってみんなと確認し合えることなのかなと思います。曲だけではく、お互い会えたことがミラクルだねと確認し合える魔法が歌かなと。
歌っている自分がいちばん素に近いですか?
中川:歌っているときが、幸せだな、楽しいな、生きていてよかったなと思います。それこそ歌は空にも届くような気がして歌っているし、プライベートで自分の曲を聴くって照れくさくてあまりやらないと思うけど、聴いた時にみんなのコールが入ってないと変な感じがする。やっぱり歌って皆さんに会えたら会えた分育っていくものだと思うんです。ただ、普通に生きていて会えることってお互いに健康で生きていて、しかも会いに来てくれているみんなの時間という命を使わせていただいているし、しかも先祖代々のミラクルもの重なっているわけですよ! そう考えると歌がなかったからこんなに大きな出会いにはなってないので! 本当に歌は自分の一番やりたい、一番難しい、一番嬉しい奇跡だなと思います。
中川さんにとってそれだけ大事なものなんですね。
中川:歌がなかったら芸能界にもういないです! 無理無理(笑)
中川翔子の物語はまだまだ続く
改めて、本作『ACROSS THE WORLD』は中川さんにとってどんな作品になりましたか?
中川:まさかのトリプルタイアップなので、とても贅沢で豪華、かつ、これまでの集大成感もあります。これまで歩んできた軌跡にちゃんと意味があったんだなと、フラグ回収のようで怖いくらいなんですけど……。この喜びをちゃんと感謝に変えて、歌に乗せてお届けしたい。3曲ともに気持ちよく歌うことが出来るし、まだまだもっとたくさん歌い重ねていきたいです!
ここで恒例の質問をさせてください。媒体名である、Lotusは直訳すると花の蓮という意味になります。本作を花や植物に例えるならどんなイメージになりますか?
中川:私、お花が大好きで、お花のサブスクをやっていて、毎週世界中のお花が届いてワクワクしているんですけど、それにしてもこの質問は難しいですね(笑)。
そうだな〜。プリザーブドフラワーとかにある虹色になっているバラかな! バラっていろんな種類あってラインストーンが付いていたり、いろんな色になっていたりするんですけど、そういったお花が今作にはぴったりかなと思います。私の一番好きなお花です!
ありがとうございます。最後になりますが、今後の目標や展望について教えてください。
中川:私は、人生の中で歌うことと絵を描くことが好き。先日、尊敬する先輩である小林幸子さんが60周年を記念して出された『オシャンティ・マイティガール』という曲にハマってしまって。ディスコサウンドでラップもあるんですけど、そうやって新しいこと楽しむ姿勢がいつも新しい楽しいを呼び寄せるんだろうと思ったんですよね。だから絵に関しても、楽しみながら画家としてやっていけるように、本腰入れてアトリエをいつか作ってやれたらいいなと思っているし、歌に関しても年齢を重ねて、歌っていくとどんどん濃くなっていくような楽曲もたくさんいただけているので、歌ったときに「来た!」と皆さんに思ってもらえるように育てていきたいと思っています。
正直、『超!しょこたん☆べすと――(°∀°)――!!』(2023年)をリリースしてスッキリというか、2回もベスト盤をリリースできて嬉しかったし、ゲームのクリア感があって怖かったんですよ。でもその先がちゃんとあった。だからエンディングって自分で決めなくてもいいんだなと思えた。この先、急に新しい出会いがあるかもしれないので、またアニソン歌い続けたいっていう夢は言い続けていきます。
TEXT 笹谷淳介
PHOTO Kei Sakuhara