【インタビュー】落語「鬼背参り」が舞台化!主宰として指揮をとる加藤夏希に作品の魅力について聞く
作家の夢枕獏が柳家喬太郎のために書き下ろした新作落語『鬼背参り』の舞台化が決定した。本企画の原案・制作総指揮を取るのは女優の加藤夏希、そして総合演出には『仮面ライダー』『スーパー戦隊』シリーズや実写版『美少女戦士セーラームーン』などを手がけた鈴村展弘。何度も同じ作品に携わった2人が中心となり、制作される舞台『鬼背参り』。2025年1月29日(水)〜2月2日(日)に新宿・シアターサンモールで公演される作品について、Lotusでは加藤夏希にインタビューを敢行。芸能界きっての落語フリークである彼女に『鬼背参り』の魅力、落語に魅力についてたっぷりと話を聞いた。
あらすじ
インタビューに入る前に落語『鬼背参り』のあらすじに触れておく必要があるだろう。
作品のあらすじは、以下の通り。
舞台は江戸時代、四方吉は女好きがもとで仲良く暮らしていたお美津を捨て大阪へ、そして久しぶりに戻った江戸でお美津が死んだことを知る。しかもその死んだはずのお美津が鬼に姿を変え、夜な夜な四方吉を探し、徘徊していると聞いた。さあ、鬼に姿を変えた女の壮絶な恋心はどこへ向かっているのか。涙を誘う語り口、哀しくも美しい愛の傑作。
なぜ、加藤夏希はこの作品を舞台化しようと思ったのだろう。さっそく、話を聞いてみようと思う。
話し下手を克服するために聞いた落語にどハマり
加藤さんは芸能界きっての落語フリークとのことですが、落語にハマったきっかけから教えていただけますか?
加藤夏希(以下、加藤):『ココリコミラクルタイプ』に10代のときに出させていただいたとき、あの番組はコントとゲストを迎えてのトーク部分の二つを常に収録していて。私はフリーのトーク部分がどうしても苦手で、そんなとき、当時のディレクターさんたちから「落語を聞いた方がいいよ」とアドバイスをいただきました。枕を聞くだけでも、話の構成をどう組むか理解できるはずということで、落語を聴き始めたのがきっかけです。
まさか、『ココリコミラクルタイプ』がきっかけになっているとは思いませんでした。
加藤:そうなんですよ! ただ、すぐ落語を聴きに行くために寄席に行くとかではなく……。やっぱり歌舞伎や相撲とか、日本の伝統的なものって敷居が高いしチケットも高いという感覚で(笑)。だから最初は本から入っていったんです。『落語こてんパン』という柳家喬太郎師匠が書いている本を最初に読んで、落語って仕事帰りにぷらっと観に行きましたレベルで行けるんだと思って、そこからようやく寄席にも行くようになりましたね。
そうなんですね! 僕はまだ敷居が高いイメージがあって寄席には行けてないんです。行きたいとは思っているんですけど……。
加藤:面白いですよ! お湯を持ってカップ麺を作っている人もいますしね(笑)。お弁当を食べたりしてもいい空間なので!
そんなに自由なんですね!
加藤:そうなんですよ! ぷらっと遊びに行ってもいい場所ですよ。
加藤さんの特にお好きな噺家さんや演目はありますか?
加藤:やっぱり、喬太郎師匠が本から入ったということもありますし、新作落語と言ってご自身でお話を作られる方でもあるので、すごく聴きやすくていちばん大好きですね!
特にお好きな演目は?
加藤:えー?! 今回舞台化する『鬼背参り』は喬太郎師匠の作ったお話ではないのですが、いちばん好きなお話ですね。
どうしても舞台化したいと思っていた
『鬼背参り』は作家の夢枕獏さんが柳家喬太郎師匠のために書いた新作落語。今回、舞台化にあたり、鈴村展弘さんとの共同プロデュースすることになった経緯についても教えてください。
加藤:一昨年末くらいに久しぶりに再会させて頂きまして。そこからちょくちょくご飯に行くようになったんですけど、実は私、こういうものを舞台化したいんですよねというお話をご飯の席でちょろっと話したんですよね。そしたら「それ、面白いじゃん!」と言ってくださって!
鈴村監督も映画やドラマの人ですけど、舞台をやりたい気持ちや、昔やっていたことはあるけれど「もう1度舞台を作ってみたいという気持ちがあるんだよね」ということでスタートした感じですね。
では、この舞台化は加藤さんの発案で進んでいったんですね。
加藤:そうなんです。私はこの10年近く会う人、会う人に『鬼背参り』を舞台化したいというのをずっと言っていて。ただ、なかなかキッカケというか、キャストをどうする?とか具体的に広がっていかないことが多かったんです。
それが鈴村さんとの再会で一気に形になっていった。なぜ、舞台化したいと思ったんでしょう。
加藤:10年以上前の話ですけど、喬太郎師匠に弟子入りをしようと思っていた時期がありまして。そのときに「今まで積み上げてきた“加藤夏希”というものを全部捨てて、弟子入りしないと僕は取らないよ」ということを言われ、それからもいろいろあって結局弟子入りすることはなかったんですけど、どうにか喬太郎師匠の話芸を自分のものにしたかったんです(笑)。ということで、私ができることは何だろうと考えたときに喬太郎師匠の噺を舞台化することがいいのかなと。
一演者として落語を観たとき、落語は何役もひとりでやられるんですけど、常に喋っている自分を客観的に見ていないとそれが出来ないんですね。かたや泣いているのに、もう一方ではその泣いている人をなだめたり、この切り替えが上手くないと出来ない。そうすると普段やっているお芝居に私は影響が出るかなと思ったりもして。普段、一つの役しかやらないので、その人の役の気持ちを大事にして作っていたものが、何役もやることで常に切り替えていかないといけない。それに癖がついたら元の役者に戻れないという恐怖もあって、落語家に一歩踏み出せなかったんですけど、舞台であれば私は〇〇役という一つの役だけど落語の噺ができる、「これだ! 私がやりたいのは!」と思ったんです。
なるほど。でも、弟子入りをしようと思うくらい落語に傾倒してしまうのはすごいですね。
加藤:喬太郎師匠が出ている寄席には毎日行って! 今日はこの話をやったとか……、そうですね、喬太郎師匠はきっと怖かったと思います(笑)。「加藤夏希が毎日観に来ている!」みたいな(笑)。
加藤夏希が思う『鬼背参り』の魅力
『鬼背参り』のどういったところに惹かれたんですか?
加藤:今の流行りでいうと、復讐劇とかがすごく多いと思うんですけど、結局人って復讐出来ないよねみたいな、『鬼背参り』はすごく人らしい噺だなと思うんです。読み終わっても、聴き終わっても、舞台を観終わっても、スッキリしない終わり方なんですよね。というのがすごくいいなと思って。
分かります。拝聴させて頂いたんですけど、純愛であり、ホラー要素もあり、本当に感動しました。確かに加藤さんがおっしゃるように人間らしいというか、スッキリしない終わり方が余計にリアルだった。1時間弱の噺が本当にあっという間でした。
加藤:うん、うん! そうですよね!
そんな『鬼背参り』を舞台化するということで、非常に楽しみなんですけど、かなり難しさもあるんじゃないかなとも思うんですが、いかがでしょう?
加藤:まず、鬼になった私が男性を背負えるのかという……(笑)。そこの部分が舞台でどうなるのかという最大のポイントのような気がしています。ただ、時代背景は昔ですけど、今も変わらず初恋を大事にしたら、こうなるんだなといういちばん初めての恋の物語かなと思いますね。
ただ純粋に彼のことを愛していただけというか、現代で巻き起こる話に置き換えることができる内容ではありますよね。
加藤:今だと、何でしょうね? ホストにハマってしまった女の子の話とかに置き換えればそうなのかな?
確かに。舞台は江戸時代で古典落語っぽいのに新作落語というのもまた味わい深いです。
加藤:そうなんですよね〜!
柳家喬太郎師匠の人柄とは?
ちなみに、喬太郎師匠の印象は?
加藤:怖いですよ(笑)。もちろんちゃんとされた方で、筋を通していれば間違いはない。ただお茶目な部分もあって、私がもし弟子入りしたら名前は何になりますかと聞くと、少し下ネタの要素の名前もあったんです。ただ下ネタを話すわけではなく、普段から纏っているシュールさが常にあるというか。それが師匠のいいところなんです。
加藤さんは喬太郎師匠とファンから親交を深めていくわけですが、どういう流れで仲良くなったんですか?
加藤:神保町にらくごカフェというカフェがあるんですけど、そこで喬太郎師匠の回があればお邪魔したり、ちょくちょくお手伝いさせて頂いたり、カフェのスタッフやオーナーさんと仲良くなって紹介して頂いて。だから、周りから攻めていった感じです。きっと、「弟子にしてください!」と扉を叩いていたら、あっけなく切られていたと思うんですけど、周りから固めて弟弟子さんとも仲良くなって、一門会の打ち上げにさらっといるみたいな(笑)。
それはすごい(笑)。熱狂的なファンですね。
加藤:だから喬太郎師匠には、「加藤さんはファンでいる状態がいちばんいいと思います」と言われました、弟子入りをすれば僕の嫌なところも見えてくる。そうやって親身になってお話を聞いてくれるんです。
だからこそ、今回の関わり方がベストだった。
加藤:そう思います。
『鬼背参り』のどういったところを楽しんでいただきたいと考えていますか?
加藤:私が初めて落語を観たとき、ハードルが高いのかなと思ったとお話をしたんですけど、落語には、噺家さんが登場してお辞儀して拍手みたいな流れがあるんですね。いろんな寄席で定番のようのことがたくさんある。きっとそれを知らない状態で観に行くのはハードルも高いし緊張すると思うんです。落語を観てみたいけどなかなか一歩が踏み出せない方も多いと思いますが、舞台というより商業的な場所に落とし込むことで窓口が広がる。落語の魅力が広がっていったら嬉しいなと思います。
やはり加藤さんの根本には落語の魅力を伝えたいという思いがあるんですね。
加藤:はい、広がっていってほしいなと思います。
初めてのキャスティング、舞台の楽しみ方
今回は、加藤さんもキャスティングに携わるとお聞きしました。演じるだけでなくプロデュースの立ち位置でもこの舞台を盛り立てるわけですが、いかがですか?
加藤:キャスティングは初めての経験で、今回私のセリフと恋敵役のセリフを台本に起こしてオーディションさせていただきました。演技が上手な方は本当に上手で、逆に私が凹んじゃうくらい……。私にこの芝居ができるのかな?と不安になった部分もあるんですけど、いい意味で実力派の俳優さんを揃えることができたなと思っています。
舞台ならではの台本があるということですもんね。落語の世界観は残しつつ、登場人物のキャラクターにもフォーカスされる。
加藤:そうです、そうです! ご近所さんという括りのところも広げて、舞台のエンターテイメント感を出していきたいなと思います。
絶対に面白いですよね。落語を聴いて感じたそれぞれの人間性や顔、背景を舞台で具現化されるって違った楽しみ方になる気がします。
加藤:面白くなればいいなと思っています! そして、舞台とは別に1日1回だけ特別公演として喬太郎師匠が『鬼背参り』の独演会をしてくださるので、そこも注目していただきたいです。実は私も生で『鬼背参り』は聴いたことがなかったので、とても楽しみなんです。
いいですね! 枕がどうなるかも気になるし、多角的に『鬼背参り』を楽しむことが出来そうですね。
加藤:喬太郎師匠は実は、ウルトラマンが大好きで『歌う井戸の茶碗』という噺ではウルトラマンの歌を歌うんです。でも、今回の舞台メンバーは鈴村さん然り、出演者も仮面ライダー出身者が多い。このウルトラマンVS仮面ライダーの構図も喬太郎師匠ファンからしたらグッとくるのかなと思ったりもしています(笑)。
そんな背景まで! また違ったベクトルで楽しめそうです。
加藤:落語家好きもちゃんと楽しめるように考えていますね。あとは、喬太郎師匠の弟弟子である柳家小平太師匠がキャストとして出演しますし、より落語の魅力を広げていく一翼を担えればなと。
『鬼背参り』をきっかけに落語を楽しんでほしい
ここで、恒例の質問がありまして。媒体名である、Lotusは直訳すると花の蓮という意味になります。本作を花や植物に例えるならどんなイメージになりますか?
加藤:菊ですね!
間違いないですね! 菊は物語の鍵になる花です。
加藤:出来れば舞台から菊の香りを出したいねと提案したんですが、「臭いよね」と却下されてしまいました……(笑)。でも、一面に咲く菊を舞台としていちばん綺麗に表現したいなと思っていて、私の携帯の待ち受けもいま菊の花なんです。
舞台でどう表現されるのか、本当に楽しみです。最後になりますが、読者の方へメッセージをお願いします。
加藤:例えば、小説が映像化したり、漫画がアニメ化になったり、それぞれ皆さんが読んで感じていた頭の中の映像が具現化されることって多いと思いますが、今回は落語が舞台化されます。『鬼背参り』を知っている方の中でもしかしたら、「思っていた鬼じゃない」や「もっと可憐な人がイメージだった」と思う方もいるかもしれません。でも、原作者である夢枕獏先生の描く世界観、そして柳家喬太郎師匠が落語で描く世界観、そして私が一落語ファンとして師匠の噺を聞いて実演してみた世界観、この3つの世界観があることを楽しんでもらいたい。だからこそあえて異なる雰囲気を出そうと考えていますし、ただ本当に楽しく、儚く、切なく、観てくださる人の心に引っかかるように作っていけたらなと思っています。
そして、舞台を観た帰りに寄席に行ってみようかなと思っていただけたら嬉しい。帰りに新宿末廣亭で悲しい気持ちを笑い飛ばしていただくのもいいかもしれない。なんてことを思いながら少しでも落語の世界を感じてもらえればなと思います。
今後も作品の舞台化は続けていきたいですか?
加藤:それこそ、今回初めて鈴村監督とプロデュースタッグを組んで、これがシリーズ化したらいいなと思っています。今回は私がどうしても舞台化したかった作品でしたが、次は鈴村監督が、やりたい作品を実施していきたい!映画化・ドラマ化が多い中、それを舞台化する劇団ということではありませんけど、そういう感じで作品を作っていきたい。落語に限らず、夏希と鈴村でチーム夏鈴(カリン)としてさまざまなものを形にしていきたいです。
鈴村監督の再会で動き出したプロジェクト。素敵なご縁ですね。
加藤:サングラスを掛けて、いつも扇子を持っていて、コワモテな監督ですけど、、いろんな監督さんがいる中ですごく優しい監督さんなんです。ちゃんと役者を育てようとしてくれる数少ない監督さんだと思います。
私のデビュー作となった『燃えろ!!ロボコン』で、彼は助監督、私は新人俳優。そこからいろんな経験を経て、同じ立場といったら違いますけど、背を並べて一つの作品を作れるというのは、とても楽しみです!
TEXT 笹谷淳介
PHOTO Kei Sakuhara
舞台情報
舞台名:夢枕獏原作 舞台「鬼背参り」
公演日: 2025年1月29日(水)~2月2日(日)
劇場: シアターサンモール(新宿) 定員294名
キャスト:萩野崇、加藤夏希、山崎真実、林剛史、柳家小平太(その他キャスト随時発表)
演出:鈴村展弘