そこに鳴る、セカンドフルアルバム「開眼証明」が証明した、ハイスペックな3人だからこそ鳴らせる、無頼なポップネスの真髄
3ピースバンド、そこに鳴るとは?
そこに鳴るがセカンドフルアルバム『開眼証明』を発売した。2011年に大阪で結成されたそこに鳴るは、鈴木重厚(Gt./Vo.)、藤原美咲(Ba./Vo.)、斎藤翔斗(Dr,/Vo)から成るスリーピースバンドである。これまで2度のヨーロッパツアー、台湾・香港でのワンマンライブを成功させるなど、国内外から注目を集めているバンドだ。
メンバー3人がボーカルをとれるほか、3ピースとは思えない緻密な構成で展開の早いバンドアンサンブル、そして3人のボーカルが絡み合うエモーショナルでダイナミックなバンドサウンドが魅力だ。メンバーそれぞれが歌い手としてもプレイヤーとしても、非常にハイスペックであることが、どの曲を一聴した瞬間からわかる。
楽曲のすべての詞曲を手掛けるキーパーソンの鈴木、このバンドのためにギターからベースに転向した藤原は、ルーツのひとつとして、凛として時雨を公言している。目まぐるしく展開するバンドアンサンブルや、メリハリあるサウンドアレンジ、楽曲全体を支配するヒリヒリとした緊張感などは、確かに前述したルーツを彷彿させるところが多々あるが、その中にもしっかりオリジナリティーを発揮しているところが、このバンドの実力だろう。
「開眼証明」から紐解く彼らの魅力
まず挙げられるのは、鈴木のボーカル。己の声質やキーを熟知しており、中低音~中高音はかなりストレートな歌い方をしている。その分、歌詞がしっかり入って来る。高音はあまり声を張らず、地声を音符におきにいくようなアプローチが印象的で、一音だけファルセットにして母音を抜き、即元に戻って来る移行も非常にうまい。
藤原の歌声クリアで柔らかな声質で、重厚なバンドサウンドの上空を並行飛行しているような印象を受けるが、子音や母音のインパクトを使い分けて、緩急を作り出している。特に、フレーズの最後の一音を強く発音した後、スッとひく手法は、バンドサウンドの展開の速さがあるから出てきたアプローチではないかと考察する。
斎藤の歌は、主メロを歌う他の2人のボーカルに絡むパターンが多いが、鈴木に声音を寄せて来たり、上でハモったり、下でハモって支えたりと、変化自在。声を張るようなアプローチはあまりないが、ピッチやリズムの安定感は相当なものだ。特に鈴木とのユニゾンするところは、音程とリズムをぴったり重ねて来ており(あれだけBPMの速い曲でぴったり重ねてくるのも驚愕なのだが)、ダブルボーカルというより、倍音が出ているような特有の立体感がある。絡み合うというよりレイヤー(重なり)で出てくる音像が、立体的に感じるのだ。
ではアルバム『開眼証明』収録曲から何曲かピックアップしよう。『re:re:realize』は、轟音がシャワーのように降り注ぐラウドロックといった彼らのお得意技だが、サビのメロディー、さらにサビのリズムが個性的。ディスコのようなノリがあり、ベースラインもフレーズの途中まではファンクマナーなフレーズなのだが、フレーズの最後に違うパターンももってきて、ラウドやハードロックに戻っていくなどアグレッシヴなアイデアを体現する超絶技巧が垣間見られる。
『罪の宴』はイントロでボサノバのフレーバーが感じられるが、世界旅行するように、どんどんアプローチが変わっていく、本作の中でもちょっと変わり種。藤原のコーラスの美しくも多角的なアプローチで優美さを、鈴木と斎藤のユニゾンで力強さを、メロディーラインで儚さを感じさせる1曲だ。
ベースとドラムの重低音で始まる『in birth』は、途中でBPMが変わったかのような大胆な展開を見せるほか、サビでもさらに次の展開があるサウンドのストーリー性に驚く。少しでも気を抜いたら置いていかれそうなスリリングさと、ダークゴシックにも通ずるメランコリックなメロディーが魅力だ。
ダンサブルなビートの中、歪ませた音のベースと、随所に現れる繊細なギターのフレーズ、鈴木と藤原のボーカルと、様々なコントラストが乱反射する『久遠に零れて』も、ハイスペックな3人だからこそ成立している曲と言える。
ヘッドフォン聴きで見付けた真髄
作品全体を通して、暴風のような疾走感、ライブ感があること、メロディーがタイトでキャッチ―なこと、そして無頼なポップネスを感じることが本作の魅力である。海外でのライブも成功させている3人ゆえ、ライブも百戦錬磨。
ライブで再現できることを前提に楽曲を作っていると思うのだが、驚くのは、ヘッドフォンで聴き込むと、それぞれの楽器の音色がどんどん変わっているように感じられるところだ。ドラムのスネアひとつとっても、1曲の中で変わっているように感じる曲がある。
つまりそれだけ、それぞれが一音一音にこだわり抜いて音を鳴らしているのだ。超絶技巧と称されることが多いそこに鳴る。その真髄は、測り知れない彼らの一音に対するこだわりの集大成と言える。
8月9日からは全国7カ所のツアー『oneman tour 2024「開眼証明」』 もスタートするそこに鳴る。“証明”と宣言しているそこに鳴るの真髄を是非体感して欲しい。
TEXT 伊藤亜希